「K-POPアイドルになりたい」日本人男性が韓国で受けた苦難 “オーディションで無視”、“氷点下でのダンス練習”
今や多くの日本人が活躍しているK-POPアイドル界。2017年に放送された韓国のオーディション番組「PRODUCE 101 Season2」に唯一の日本人として出演し、現在はKENTA・SANGGYUNとして、日韓両国で活動している高田健太さん(29)は、そんな日本人K-POPアイドルの先駆的な存在の1人だ。のちに所属事務所を相手取った訴訟まで経験した高田さんの波乱に満ちたK-POPアイドル生活とは――。 【写真】日韓で活躍するアイドル高田健太さん(29)。ノーメイクは印象が違う!“すっぴん風”な自撮り ※本稿は、『日本人が韓国に渡ってK-POPアイドルになった話。』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。(前後編の前編)
まずは韓国語の塾に
2015年12月29日、キャリーケースを片手に僕は韓国へ渡った。到着した時、ソウルは雨が降っていてずぶ濡れになった記憶がある。 韓国にはコシウォンと呼ばれる下宿所があって、最初の月の家賃を前払いすれば誰でもその場で部屋を貸してくれた。主に地方の受験生や外国人が住んでいて、2畳ほどの部屋と共同のスペースがあった。場所にもよるが、僕が住んでいたところはトイレとシャワー、洗濯機は共有だった。 韓国語も「アンニョンハセヨ=こんにちは」と「カムサハムニダ=ありがとうございます」しか分からない状態で渡った僕は、コシウォンの近くにあった韓国語の塾に通うことにした。 当時はまだグローバルオーディション(韓国国外で行われる公開オーディション)を開催するのは大手と呼ばれる事務所くらいで、中小規模の事務所は韓国国内で毎週、または毎月行われるオーディションに参加するか、メールで応募するのが主流だった。もちろん外国人だからと特別扱いされることもなく、韓国語が分からないからと丁寧に説明してくれる訳でもなかったから、聞き取れなければ順番を飛ばされるようなこともあった。だからまずは韓国語を学ぶ必要があったのだ。
オーディションでのひどい対応
2ヶ月間だけ塾に通い韓国語の基礎を勉強しながらオーディションを受ける日々。片っ端から色んな会社を受けた。同じ会社のオーディションを数回受けたこともあったし、意味の分からない地下牢みたいな会社にも行った。それでもなかなか簡単にはいかずオーディションは全て落ちた。ことごとく、呆気なく全てに落ちたのだ。 ある会社にメールを送った際、オーディションをしてくれるという返信が来た。緊張しながらも、韓国語の自己紹介と歌とダンスを準備して向かった。 会社に到着すると新人開発チームの方が練習室まで案内してくれた。練習室のすぐ横にジムが付いている構造だったので、ガラス越しに誰がいるのか分かるようになっていた。多分その会社のアーティストなのだろう、バイクの器具に乗って運動している女性の姿が見えた。軽く会釈をし待っていると、担当の男性と女性が練習室に入ってきた。 緊張がどんどんMAXに近づきながらも元気よく挨拶をすると、女性からは返事が返ってきたが、男性は清々しいほどの華麗なる無視だった。まあそんなもんだろうと思いながら、言われた通りにカメラに向かって挨拶をし、まずは歌を披露したのだが、男性は一瞬たりとも僕を見ることなく携帯を触っている。続けてダンスを披露しようと曲のイントロが流れたその時、男性は何も言わずに去って行った。ハリー・ポッターのスネイプ先生ばりに華麗なる去り姿だった。すぐに女性の担当の方がもう大丈夫と言うことでオーディションは終了した。結果はお察しの通りだ。 この会社だけがそうだったらよかったのだけれど、大体はこんな感じだった。でも勘違いしないでいただきたいのは決して会社が悪いとか、全ての会社がこうだったとかそういう話ではなくて、これは僕の実力不足が招いた過冷なるオーディションの話であって(フィクションであって欲しい)ノンフィクションであるということ。ちなみに、オーディション帰りの僕に追い打ちをかけるように冷たく舞う吹雪が僕の心をさらに冷却したというエピローグ付きだ。 改めて思い返すと、きっと当時の僕に魅力を感じていたらみんな僕を見ていただろう。今、僕がその会社に行けばそんな態度は取らないはずだから。