防御率20.65でも…上沢直之はなぜ何度もオープン戦のマウンドに立てるのか? マイナー契約選手内にもある“MLB格差社会”
日本ハムからポスティングシステムでMLBのレイズへ移籍した上沢 直之投手(専大松戸)が苦しい状況となっている。 【一覧】上沢と同じく2011年ドラフト会議で指名された高卒選手 マイナー契約を結び、開幕までメジャー昇格を目指す上沢はここまでオープン戦で3試合を投げて、防御率20.65(3月11日現在)と目を覆いたくなるような成績だ。 「開幕メジャーはかなり厳しい。上沢はMLBで通用しない」などと思った方も多いはずだ。それでもレイズのキャッシュ監督は「猶予を与える」というコメントを残している。 この成績でも上沢がチャンスを与えられるのはなぜだろうか? 元DeNAの投手・冨田 康祐氏(PL学園)に解説してもらった。冨田氏はDeNA退団後の2015年、レンジャースのマイナーで1年間、プレーした経験がある。 「上沢選手は、マイナー契約ですが、単なるマイナー契約の選手じゃありません。レイズのメジャーキャンプの招待選手なんです」 簡単にMLBの選手登録の仕組みを説明しよう。メジャーリーグの舞台でプレーできるのは各球団40人。まずは40人に入らなければいけないのだ。 「上沢選手はこの40人枠を争う当落線上の招待選手という扱いです。普通のマイナー契約の選手よりも期待値が高いのが招待選手。実績あるベテランや期待の若手など様々な選手が招待選手として迎えられます。ポイントは、上沢投手はメジャー契約の誘いもありながらも、あえてマイナー契約のレイズを選んだ経緯があることですね」 つまり、上沢は普通のマイナー契約よりもかなり“格上”なわけだ。実際、2月29日のオープン戦初登板に始まり、3月5日、10日と、きっちりと登板予定が設けられてきた。
チャンスもなかなかもらえない“一般のマイナー選手”
一方で、通常のマイナー契約の投手は大変だ。まずメジャーのキャンプに呼ばれる実力がなければならない。 「当然、能力が高い投手ではないと呼ばれないです。2A、3A相当の投手が入りますね。ここに入ることも競争になります」 ここを勝ち抜いてメジャーキャンプに参加できても、上沢のような計画的な登板機会は与えられない。「バックアップ」と呼ばれ、常にベンチで待機している。 「メジャー契約の投手は、あらかじめ投げるイニング、予定の投球数が決まっています。しかし、計画通りにいかないこともあります。打ち込まれたり、予定よりも球数が多くなってしまったり……。リミットに達したら、イニング途中で降板します。そんなとき“穴埋め登板”するのが、『バックアップ』で入っているマイナー契約の投手です」 実際冨田氏も、マイナー契約だったレンジャーズ時代、オープン戦の9回二死から急きょ登板したことがある。いつ登板できるのかまったくわからない中で、バックアップの選手たちはこんなことを考えているという。 「(マウンドに立つ投手の)球数が増えることを願っています(笑)。自分はバックアップで入った最初の試合で、運よく登板できたんですよ。登板している投手の球数が少なかったり、あっという間に2アウトまでいってしまうと、『今日はオレたちバックアップの出番はないのか』と寂しい心境になりますね」