「着物とともに思いも受け継ぐ。それを大切にしたいと思います。」俳優・宮﨑香蓮さんの着物の時間。
風にそよぐようなしだれ桜、満開の梅、そのところどころに菊をモチーフにした簪(かんざし)を配した錆朱とベージュの染め分けの訪問着。そこに、鴛鴦(おしどり)を織り出した金糸の袋帯を組み合わせ、すっと立つ俳優の宮﨑香蓮さんからは、華やかななかにも品格が漂う。 「母の嫁入りの際に祖母が見立てて誂えてくれたもので、大切な行事の際にはこの着物を着ていたと思います。確か、私の小学校の卒業式もこの着物だったような……」 芸能生活も18年目。これまでも艶やかな着物姿を披露してきた宮﨑さんだが、意外にも訪問着を着るのは初めて、という。 「年齢的なことも大きかったと思いますが、仕事では振袖がほとんどでした。ピンクや水色、クリームといった淡い色に大ぶりな花などが描かれたものが多かった。でも私は淡い色より渋い色が好きなんです。ですから、母から譲り受けたこの着物の色はまさに着たかった色。柄も優しい感じで大好きです」 今回、訪問着を着て気がついたことがある、と宮﨑さん。 「袖が短いとなんて動きやすいんだろうと。袖が長いとどこかにひっかけるんじゃないか、汚さないようにといつも気にしていましたから(笑)。後は大人になった気分がすることです」 訪問着とともに母親から譲り受けたものがもうひとつある。
「鳳凰(ほうおう)が織り出された袋帯(上写真)で、母が成人式の時に締めたもの。これも祖母の見立てです。祖母の着物を選ぶ目は確かで、どこか魅力的なんです。この帯も織り出された鳳凰が銀色の天空で舞っているよう。眺めているだけで幸せが舞い込むような気がします。まだ締めたことがないのですが、一つ紋の鮫江戸小紋を誂えて締めてみたい」 まだ自分で着付けはできないが、自分で着て出かけられるようになりたいという。 「母たちの着物がたくさんありますから、思い出とともに受け継いで大切に着たいです。母が結婚式で感じた幸せな思い、成人になった誇らしさ、それらが全部着物から伝わってくるような気がします。ほつれや汚れなどで手を入れなければならないこともあります。事実、今回の長襦袢も母のものなのですが、半衿が傷んでいたので、桜の刺繡に掛け替えたところ、生まれ変わりました。表地の色を掛け直せば新しい着物ができあがる。これも魅力のひとつだと思います」