生まれ変わった大戸屋の業績が好転…怪我の功名となった敵対的買収? 男性客の取り込みに成功か? 次なる成長のカギはファミリー層の獲得
30~40代女性は飲食店のランチ利用が旺盛
ここで食堂を取り巻く市況から見ていこう。 大戸屋は2024年3月期の既存店の月次売上(前年同月比)が平均で115.3%だった。既存店とは新規オープンから一定期間の年月が経過した店舗。グランドオープン効果がない分、本質的な集客力を見るのにふさわしいものだ。 大戸屋の既存店は各月の売上が平均で1割以上増加したことになる。飲食店の売上は客単価と客数で決まる。2024年3月期の大戸屋は客単価が前期比9.1%増加し、客数は5.3%増加した。客単価は1割も増加した。 これは市況が好影響を与えていそうだ。 リクルートのホットペッパーグルメ外食総研は、会社員や自営業者に対してランチの調査を行っている(「有職者のランチ実態調査(2024 年 3 月実施)」より)。それによると、2024年の外食店内でのランチにかける1回の食事代は1243円。前年より4.5%(53円)上がっている。飲食店を利用したランチ単価は上昇率が高く、2020年の調査では1039円だった。4年で200円以上も上がったのだ。 物価高によって価格上昇に消費者が慣れたことに加え、リモートワークが進んだことによって出社をする際のランチは贅沢をしたいという消費者意識が強まっている。 しかも、大戸屋の主力ターゲットである30代、40代の女性は特にランチの消費額が大きい。30代の男性は1212円だが、同じ年代の女性は18.5%(225円)高い1437円だ。40代女性は1344円で、男性よりも15.0%(176円)多い。 大戸屋の鉄板メニューである「鶏と野菜の黒酢あん定食」は980円。「チキンかあさん煮」が950円だ。「鶏と野菜の黒酢あん定食」は2019年と比べると100円程度値上げしているが、客離れは起こしていない。値上げ耐性が出来上がっていたのだ。
提供スピードの引き上げに挑戦中
企業努力も大きい。それは値上げを行なっても客数が増加しているところによく表れている。その大前提として、大戸屋が支持されている要因は味のよさだ。 シルミル研究所は全国の女性を対象とした定食チェーン調査を行っている(「「定食チェーン店」に関する調査」)。それによると、定食チェーン店リピート率の1位が大戸屋だ。行く際に最も重視することとして、トップが「味」の27.2%。次いで「価格」が18.4%と続く。「アクセスのよさ」は14.7%とさほど高くない。 大戸屋の美味しさにひかれてリピート利用する姿が浮かび上がってくる。実は買収後の大戸屋はリピーター向けの集客施策を強化していた。それが提供スピードの削減だ。 2023年3月期の最短店舗の平均提供時間は6分54秒。2020年11月時点では7分21秒だった。30秒近く早まっている。全店平均では5秒削減した。 国内で300以上あるチェーン店において、提供スピードを上げる取り組みは極めて難しい。ましてや敵対的買収後であれば、従業員のモチベーションも上がりづらいはずだ。作業効率を上げることで、料理の質や味が落ちることもありえる。たかだか平均5秒の削減だと感じるかもしれないが、これだけマイナスになりえる要因が揃う中で、顧客の満足度をキープしつつ、提供スピードを上げたことは成果として大きいだろう。 大戸屋は次なる目標として、提供時間が12分以上の店舗の撲滅を目指すという。それにより、全国平均で40秒の短縮になる。提供時間が短縮できれば、顧客満足度の向上、高回転率の実現、店舗に入れない顧客の待ち時間の削減など、プラス効果は大きい。