『室井慎次』前後編はなぜ“映画”として製作されたのか 柳葉敏郎の人生が刻まれた室井慎次
亀山千広に君塚良一から届いた「室井を書きたい」のメール
亀山によると、本作は、『踊る』シリーズの脚本家・君塚良一から「室井を書きたい」、そして、亀山、君塚、本広の3人で仕事がしたいというメールをもらったのがきっかけだったという。また、当初の脚本では、大きな事件は描かず、田舎に引きこもった室井が、少しいじけながら農業をやりつつ、里親をしているという、淡々とした家族のドラマにしようとしていたという。 そのため、当初はBSフジで全4話程度の作品を想定していたそうだが、臼井に相談したところ劇場映画2部作となり、『踊る』シリーズを求めるファンに向けた大きな事件が起こる現在の脚本に変えていった。 話を聞いて何より印象に残ったのは、室井という役を大切にしている柳葉敏郎の俳優としての強いこだわりで、1人の人間を演じるという行為を追求すると、これほどまでの高みに達することができるのかと感動した。 また質疑応答で亀山は、フジテレビで様々な役職を転々としてきた自分の人生を振り返った後、室井の人生に対して「わかるな」と語っていたのが印象に残った。 『北の国から』(フジテレビ系)を筆頭に、現代を舞台にした実写映像作品の面白さは、演じるキャラクターと一緒に役者が年齢を重ねていくことだ。 27年という『踊る』シリーズの歴史の中で劇中の登場人物は私たちと同じように年を重ねており、室井慎次と同じ時間を作り手もファンも生きてきた。その同じ時を共に生きてきたという重みがもっとも強く感じられるのが、映画『室井慎次』の前後編だろう。 最後に亀山は「室井に対する感謝」を映画に込めたと語ったが、作り手にここまで深い思い入れを持って映像化された室井慎次という男は、本当に幸せである。
成馬零一