レスリング 露呈した闇
五輪存続も課題は山積
レスラーにとって一年の終わりは、世界選手権の決勝とともに訪れる。そして、しばし体を休めその年を振り返るのだが、今年だけは、9月22日の夜にすべての試合が終わったあと、多くの人が2月の五輪中核競技除外から始まった五輪存続問題について思い起こしていることだろう。 ハンガリーの首都・ブダペストで世界選手権が始まる約2週間前、レスリングは2020年、2024年まで五輪競技として存続することが国際オリンピック委員会(IOC)総会で決まった。「少し早い誕生日プレゼントのようだった」と、表彰式のプレゼンターとして世界選手権会場にあらわれた9月生まれのカレリンが言ったように、この決定はレスリング関係者に喜びと安堵をもたらした。しかし、本当に気がかりは取り除かれたのだろうか? 南米アルゼンチン、ブエノスアイレスで開催されたIOC総会のプレゼンテーションの質疑応答で、IOC委員から事実だとすれば大きなスキャンダルである内容を含んだ質問が投げかけられた。 「汚職とメダル買収の疑惑があると言われているが、それについてはどのように対応するのか」 この質問は、8月末にフリー66kg級ロンドン五輪銀のクマール(インド)が2010年の世界選手権決勝を前に買収をもちかけられたと地元インドの新聞で告白したことが念頭にあったのだろう。対戦相手は開催地ロシアのゴガエフで、外国人コーチを通じてロシア関係者から約15万ドルの現金を提示された。「ただのレスラーにとっては大金だった」と魅力を感じつつも、彼はわざと負けることを断り、インド初の世界チャンピオンとなった。 この疑惑はクマールの告白のみが情報源で、ほかに証拠はない。報道されるとすぐにインドレスリング連盟が「そのような報告をクマールから受けていないし、事実も把握していない」と公式にコメントした。一方のロシア連盟は、報道そのものを無視し続けている。真相は今も藪の中だ。 事実かどうかの確証はないが、五輪銀メダリストの告白はレスリングが五輪で実施されるまともなスポーツ競技にふさわしいか、疑問をもたれるには十分なインパクトを持っていた。過去の世界選手権で、不自然に開催地の選手が優勝した例がいくつかあることも耳に入っていただろう。