世界各地で35年以上も続く活動、米国の「航行の自由作戦」とは何か?
米国の安全保障政策上も重要な「航行の自由」
「航行の自由作戦」(FONOP)は、国際法に基づいた「法の支配」を確立しようとするだけではなく、米軍の活動の自由度を確保しようとする活動でもあります。米国は、自国と同盟国・友好国を守るために、世界のどこへでも戦力を展開し、作戦を遂行できる能力を確保しようとしています。この能力は「戦力投射能力(power projection capability)」と呼ばれています。 戦力投射能力を象徴する存在が、多数の攻撃機などを搭載し、強力な打撃力を有する空母です(図4参照)。米国が今後も戦力投射能力を維持していくためには、空母などの戦力を保有するだけではなく、それらが自由に行動できる環境も整える必要があります。海と空における「航行の自由」を保障した国際法に基づいた環境を整えることは、結果的に米軍の活動の自由度も確保することになるのです。
過剰な主張を抑制するために軍が担える最も現実的な活動
「航行の自由作戦」(FONOP)は、沿岸国の過剰な海洋権益の主張に対抗しつつ、国際法によって全ての国に保障された海と空に関する権利などを守り、併せて、米軍の活動の自由度も確保しようとする、35年以上前に始まった米軍が行う活動です。確かに、軍を投入する「航行の自由」作戦は、時に対象となる国を刺激する可能性があります。 しかし、対象となる国の反発を懸念して何ら行動を起こさないと、過剰な権益を主張する国の立場を暗に認めてしまうことになりかねません。だからこそ、あらゆる事態に対応できる軍隊が、国際法の範囲内で、抗議のために行動することには意味があるのです。 米国は今、「海洋の自由(freedom of the seas)」という建国以来大切にしてきた原理と、自国軍隊の行動の自由度という安全保障政策上重要な課題に対する挑戦に直面しています。米国は今後、こうした事態を打開するために、より次元の高い作戦を展開することでしょう。 (廣瀬泰輔/日本国際問題研究所・若手客員研究員) ---------- 廣瀬泰輔(ひろせ・たいすけ)。元米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員。日本財団国際フェローシップ(2期)。EU短期招聘訪問プログラム(EUVP、2015年)。防衛大学校卒。松下政経塾卒。国会議員秘書。予備自衛官(1等海尉)。