【ビヨンセ】お嬢様から過酷な修行、流産と出産からの学び……「一番を目指さない」ビヨンセが女王になった理由
史上最高の「音楽界の女王」
2010年代、30代のキャリアは、より大きな視座で展開された。母親となって子の未来を第一に考えるようになったことで、音楽界で「ナンバーワンであること」が優先事項ではなくなったのだという。こうして、キャッチーなヒット曲よりも、より実験的な音楽、社会的なテーマのアルバム志向を強めることとなった。フェミニズム視点で人生の苦難を振り返る『Beyoncé』や、夫の不倫からブラック・ライブズ・マターへとつながる『Lemonade』など、自身の家系の機能不全の連鎖とアフリカ系アメリカ人の苦難の歴史を重ね合わせる大作にチャレンジしていく。 「一番」を目指さない革新的かつ社会派な方針は、ビヨンセを特別な女王の地位にひきあげた。Netflixドキュメンタリー『HOMECOMING: ビヨンセ・ライブ作品』で映される2018年コーチェラ・フェスティバル公演は、後輩のチャンス・ザ・ラッパーより「マイケル・ジャクソンを超えた史上最高のショー」とまで評されている。
人生で一番楽しい40代
双子にも恵まれたビヨンセは、40代となった現在が人生でもっとも楽しい時期だという。社会問題への関与はつづけているが、仕事では個人としての楽しさを重視するようになった。現在展開されているアルバム三部作における『ルネッサンス』はハウス&ダンス、このたびの『カウボーイ・カーター』はカントリー&アメリカーナで、どちらも「白人のジャンル」というイメージがついたサウンドの黒人ルーツを再解釈しつつ遊び心に満ちた内容になっている。日本での緊急サイン会も、ファンとの楽しい交流を望んでのことだったのだろう。 【辰己JUNK】 セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)