高齢者運転、後絶たぬ事故 広島県内、免許自主返納は減少傾向 重傷負った女性「なぜ限界まで乗ろうとするのか」
高齢ドライバーによる悲惨な事故が後を絶たない。広島県では人身事故のうち高齢者に過失のあるケースが2023年は26・1%を占め、過去10年で最も多かった。一方で県内の運転免許の自主返納数は東京・池袋で暴走事故が起きた19年に過去最多になったものの、その後は減少傾向だ。社会全体で安全性を高めていくにはどうすればいいか。ある事故を基に考えた。 【図版】広島県内の人身事故のうち65歳以上に過失のある事故の割合や65歳以上の免許保有者数と免許返納者数 「いずれは車を手放さなければいけないのに、なぜ限界まで乗ろうとするのか」。高齢男性の車に衝突され、足の指を失う重傷を負った広島市の女性(49)は訴える。 事故は21年4月、安佐北区内の病院の玄関で起きた。女性は、突っ込んできた車と建物の壁に下半身を挟まれた。手術後に医師から「右足の指がなくなっている」と告げられた。涙が止まらなかった。 運転者は、病院から約10キロの団地に住む84歳(当時)の男性。関係者によると、アクセルとブレーキを踏み間違えたという。認知症の兆候がありながら「病院通いにも車が要る」と周囲の反対も意に介さなかった。事故後、過失運転致傷の罪で禁錮1年4月、執行猶予3年の判決を受けた。 女性は3年間に手術を10回受け、入退院を重ねた。骨盤がもろくなり、右足をかばうため気楽に歩けない。生きがいだったヨガの指導や家業の手伝いをやめた。「自分も周りも人生がめちゃくちゃ。同じ思いを誰にもしてほしくない」。高齢者に対しては「自分の運転を見つめ直し、車のない生活に少しずつシフトしてほしい」と願う。 県警によると、県内の65歳以上の免許保有者は23年末時点で47万8628人。13年末より27・5%増えた。人身事故のうち65歳以上に過失のある事故の割合は13年の17・0%から、23年の26・1%へと増えた。 免許返納者は19年の1万3558人をピークに減り、23年は8874人だった。返納者にはタクシー運賃割引などの特典があるが、地域によっては車がないと暮らせない高齢者もいる。 安佐北区の自動車学校で高齢者講習を受けた女性(85)は「買い物帰りにバス停から歩くのはつらい」と話す。周囲に返納する人が増える一方、外出が減った人がいるのも気がかりで「元気なうちは運転したい」とする。 国は22年5月から、一定の違反歴のある75歳以上に免許更新時の実車試験を課すなどの対策を進めている。九州大大学院の志堂寺和則教授(交通心理学)は「より多くの高齢者の運転技能を確認できるよう、新たな講習などを開発すべきだ」と指摘する。免許返納については「使い勝手の良い配送サービスの導入や、外に連れ出してくれる身近な人の支えが鍵になる」としている。
中国新聞社