米中対立が追加関税の報復合戦に発展する可能性
政治色が強い中国製EVなどへの関税率引き上げ
バイデン米大統領は5月14日に、電気自動車(EV)、半導体、医療用製品、鉄鋼などの中国製品への関税率を大幅に引き上げることを発表した。中国製EVについては、現状25%の関税率は4倍の100%へと引き上げられる(コラム「米国が中国製EVへの関税率を4倍に引き上げ100%へ」、2024年5月14日、「世界でEVへの逆風が強まる」、2024年5月17日)。 既に適用されている関税の影響もあり、中国製EVは米国ではほとんど流通しておらず、また、中国製鉄鋼の輸入も僅かである。それにも関わらず、不公正貿易とみなす相手国への一方的な制裁を認めた米通商法301条に基づく関税引き上げを実施するのは、11月の大統領選挙を睨んだ政治色の強い動きと考えられる。 議会や国民の間で、中国強硬論が強まっていることに加えて、バイデン大統領が注力している激戦3州のうち、ミシガン州には自動車生産が集中していること、ペンシルベニア州は鉄鋼生産の中心地であること、への配慮もあるのではないか(コラム「バイデン大統領が賭ける『青い壁』3州」、2024年5月20日)。 米国政府は、今回の対中関税率引き上げは、比較的限定された措置である点を強調している。対象となる中国製品は180億ドルであるが、トランプ前政権は3,000億ドル相当の中国製品に制裁関税を課した。
IMFやEUも米国の措置を批判
米国の関税引き上げ措置については、中国以外からも批判の声が上がっている。国際通貨基金(IMF)のコザック報道官は16日に、バイデン大統領が発表した貿易制限は、貿易と投資をゆがめ、サプライチェーン(供給網)を分断し、報復措置を引き起こす可能性がある、と指摘している。さらに「このような分断は世界経済にとって非常に大きな損失となる可能性がある」とした。 加えて、IMFが2023年に確認した世界の貿易制限措置は約3,000件と2019年の1,000件から大幅に増加したと説明した。さらに、保護主義や経済・貿易圏のブロック化などによって世界貿易に深刻な分断が生じる最悪ケースのもとでは、世界のGDPは約7%も減少する可能性があるとした。 また欧州では、米国が中国製EVへの関税率を大幅に引き上げることによって、より多くの中国製EVが欧州に流れ込むとして、米国の措置に対して、政界、産業界から批判も上がっている。