フライヤーがなく油の匂いもしない…「巨大帝国」マクドナルドに挑むライバルたちの「意外すぎる秘策」
もはや、ハンバーガーショップで一食1000円超えは、当たり前の時代のようだ。 東京メトロ日比谷線の広尾駅から3分ほど歩くと、お洒落なカフェのような建物が見えてきた。看板には「mosh Grab’n Go」とある。実はここ、’22年の11月29日(いい肉の日)にオープンしたモスバーガー直営のチーズバーガー専門店なのだ。店内に足を踏み入れると、随所に置かれた観葉植物が目を引く。 【画像】マクドナルド帝国への下剋上が始まる…! ハンバーガーチェーン「最新勢力図」 記者が調理風景を見るべくオープンキッチンを覗いてみると、他のチェーンに必ずあるフライヤーが存在せず、油の匂いもしない。 注文は現金不可のタッチパネル方式で、メニューは「2種のチーズバーガー」(単品600円)、「ふわとろチーズバーガー」(800円)、「クワトロチーズバーガー」(900円)など4種類しかない。 はちみつを使用したほんのり甘いバンズに、特製の調味液に漬け込んだボリューム満点のパティ、そしてこだわりのチーズがよくマッチしたハンバーガーは、有名レストランにも負けない味わいだ。ドリンクに10種類の野菜や果物を使用した「グリーンスムージー」(550円)を頼めば、さっぱりと楽しむことができる。 揚げずにオーブンで焼き上げたポテト(250円)にケチャップをたっぷりとつけながら、フードジャーナリストの長浜淳之介氏が話し始めた。 「ここ数年で、ハンバーガーづくりの要(かなめ)となる肉も、小麦粉も、油も、人件費も光熱費も全て値上がりしました。とはいえ、あくまでハンバーガーは片手で食べられる気軽な食事でなくてはならず、ただ単に値上げするだけでは消費者は離れてしまう。そこでモスバーガーは、居心地の良いカフェスタイルとクオリティで勝負する店をはじめた。客単価は1000~1500円とかなり強気の値段設定ですが、評判は上々です」 手作り感を重視するモスバーガーは、人件費高騰の煽りを受けて、’22年に3億円以上の赤字を計上した。’23年度は黒字に復帰する見込みだが、依然、予断を許さない状況だ。高価格帯店舗の展開は、売り上げ回復の秘策なのである。 いち早く高級路線へ進出することができたのは、消費者が持つモスバーガーのイメージに合致しているからだという。 「ファストフードだが、しっかり野菜を摂ることができるというのがモスのコンセプト。バンズではなく野菜で具材を包む『モスの菜摘』(460円)や、『こだわりサラダ』(300円)など、質の高いメニューが多い。値が張っても高品質で健康的な商品を選ぶ消費者に好まれているんです」(長浜氏) 高価格・高品質戦略に舵を切っているのは、「大人がくつろげるバーガーカフェ」がコンセプトのフレッシュネスバーガーも同じだ。 「大手ハンバーガーチェーンで唯一、アルコールを提供しているのがフレッシュネスです。16時以降に通常420円の生ビールが290円になるハッピーアワーを実施するなど、大人をターゲットにしています。また、全てのハンバーガーがプラス80円で低糖質バンズに変更できるのも特徴。ハンバーガーの不健康なイメージを払拭し、客単価を上げることに成功しています」(B級グルメ探究家の柳生九兵衛氏) ◆各社の「付加価値合戦」 モスやフレッシュネスが居心地のよさや健康志向の商品展開で飛躍を誓う中、バーガーキングは真逆の付加価値をつけることで、特定の消費者の心を鷲掴みにしている。 「最大の特徴は『ワッパー』(590円)に代表されるハンバーガーのボリュームです。多少高くてもお腹いっぱい食べたい、という層から支持を集めています。他のチェーンにはない直火焼きの肉々しいパティは非常に魅力的。昨年11月には『ダブルラージサイズ』だと1個で1000キロカロリー超えの『にんにく・ガーリックバーガー』(1040円)を投入するなど、『とにかく自慢のハンバーガーをガッツリ食え!』という気概が感じられます」(柳生氏) バーガーキングは’93年に日本へ進出したが、業績が振るわず’01年に撤退。’07年に再出店し、現在では200を超える店舗を展開するまでに成長し、雪辱を果たした。昨今の「健康」や「サイドメニューの拡充」といったトレンドにあえて逆行する覚悟が、他店との差別化につながったのである。 値上げラッシュが続く中、苦境に陥っているのが’72年創業のロッテリアだ。 「ハンバーガービジネスの黎明期、明治乳業が『サンテオレ』、森永製菓が『森永ラブ』、江崎グリコが『グリコア』を展開するなど、菓子・乳業メーカーがこぞってハンバーガーショップを出店しましたが、大きなチェーンで生き残っているのはロッテが運営していた『ロッテリア』だけ。’77年に『エビバーガー』(420円)を爆発的にヒットさせ、その地位を確立しました」(前出・長浜氏) ところが、格安バーガーチェーンとして最盛期に500を超えたロッテリアの店舗数は現在約300に減少。’20年度には4億円の赤字に苦しんだ。『エビバーガー』や『絶品チーズバーガー』以外のヒット商品を開発できなかったことや、値上げによる顧客離れがその理由とされる。 「業績悪化を受け、’23年にロッテリアは『すき家』などを運営するゼンショーホールディングスに売却されました。ゼンショーは昨年、グループの海外店舗数を現状の約6000店から1万店に増やす方針を発表。この買収劇はゼンショーの海外戦略の一環だと考えられます。ロッテリアは海外に活路を見出すかもしれません。’24年を迎え、ゼンショーがどう動くのか要注目です」(証券アナリストの宇野沢茂樹氏) 一方、全国で約3000店舗を展開するハンバーガー業界の「超大国」マクドナルドにも綻びが見え始めている。フードアナリストの重盛高雄氏が話す。 「’23年の2月以降毎月、前年度比で客数が減少しています。理由は値上げです。昨年1月、約8割の品目を最大で150円値上げしたんです。マクドナルドのビッグマックセットは750円になってしまった。今までは牛丼など低価格の飲食店がライバルでしたが、現在はラーメンやカレーなどもう少し高めのチェーンが競合相手。低価格で売ってきたマクドナルドからお得感が失われるため、ハンバーガー界の競争は熾烈になるでしょう」 ながらく「一強」だったマクドナルドも、手をこまねいているわけではない。 「100~200円でパティが2倍になる『夜マック』を打ち出し、いち早く客単価の高い夕食需要の獲得に動いています。また、消費者を飽きさせないよう、『グラコロ』など定番の季節限定商品の新作も毎年発売するなど、その商品開発力も健在。売り上げも好調をキープしています」(前出・長浜氏) 高級路線へシフトするのか、格安路線を堅持するのか、はたまたヒット商品の開発に賭けるのか――。’24年、ハンバーガーチェーン業界で、マクドナルド帝国への下剋上が始まろうとしている。 『FRIDAY』2024年1月19日号より
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