命の尊さ(1月16日)
地球を飛び出すのが遠い夢だった時代。ドイツ・ミュンヘンの博物館で室内照明が消え、あまたの星が輝く。宇宙が現れた。どよめきの後、万雷の拍手が起きた。1世紀前、近代的な光学式プラネタリウムが初めて披露された▼希代の発明品は世界に広がる。県内で初めて常設されたのは36年後の1959(昭和34)年、郡山市のデパートの屋上だった。2年前、人類初の人工衛星が打ち上げられた。詰めかけた市民は再び宇宙のロマンのとりこになった▼現在、県内で最大規模を誇るのが郡山市ふれあい科学館にある設備だ。名誉館長を20年務めた漫画家松本零士さんは宇宙をことさら愛し、来館した子どもたちに語りかけた。「映像を見て銀河への夢を育んで。持ち続ければ必ずかなう」。またある時は、職員に打ち明けた。「月や火星に行きたい。片道切符でもいい」▼来月で亡くなって1年になる。代表作「銀河鉄道999」は、幸せの「青い鳥」を探して旅する兄妹の童話が下敷きになったとされる。巨匠は85年の生涯をかけて何を追い求めたのか。ライフワークと言える「戦場まんがシリーズ」に答えはある。それは命の尊さ―。人類は滅亡への片道切符を手にしてはならぬ。<2024・1・16>