長崎いのちの電話が開設30年「生きながらえる手伝いを」 人材確保が課題、ピーク時から3割減
生きづらさに悩む人たちの相談に電話で応じる「長崎いのちの電話」が5日、開設30年を迎えた。訓練を受けたボランティアが年間約1万件の相談を受けてきたが、高齢化などで担い手はピーク時から約3割減。人材確保が喫緊の課題となっている。 長崎市内の雑居ビルの一室。2畳ほどの個室の固定電話が鳴った。「はい、長崎いのちの電話です」。相談員は相づちを打ちながら静かに耳を傾ける。時には1件に1時間応対することもある。「言葉だけではなく、電話口から聞こえるため息や無言から相手の気持ちをくみ取っている」。相談員の60代女性は話す。 精神疾患がある、長年連れ添った伴侶と死別した、生きがいがない-。さまざまな悩みや不安を吐露する電話は県内外からかかってくる。年齢が比較的高く、孤独感のある人々が社会とのつながりを求めるケースが多いという。 彼らの思いを受け止める相談員は、事務所で数時間ごとに交代で就く。1994年の設立初期から携わる人もいる。26年続けてきた70代の女性は「私にできることは『元気に生きていかんばよ』と背中を押すこと。私にとっても生き方を教えてもらう大事な場所」と笑顔を見せる。 相談員に就きたい人は、傾聴力や対応力を身に付けるために有料の研修を事前に受ける。座学や演習の期間は約1年半に及び、相談員になった後も定期的な講習の受講が必要となる。相談員はピーク時の2004年には118人いたが、現在は約80人。利用者からは「電話がつながりにくい」との指摘もあるという。 02年に社会福祉法人の認可を受け、今年6月には県内2カ所目の活動拠点となる分室を佐世保市に新設。県北在住の相談員が訪れやすい環境も整えた。それでも「今いる相談員の負担を増やすことはできない。人材確保がまず必要だ」と田村繁幸事務局長は話す。 人工知能(AI)など技術が発展しても、長崎いのちの電話は今後も電話対応にこだわる。生身の声で応じるからこそ、悩んでいる人は気持ちが落ち着いたり、救われたりすると考えるからだ。田村事務局長は「30年を迎えても活動は変わらない。相談者が今日一日を生きながらえるお手伝いを続けていく」と力を込める。 電話相談は年中無休で、午前9時~午後10時。毎月第1、第3土曜日は午前9時から24時間対応する。長崎いのちの電話=095(842)4343。 (鈴鹿希英)