消えゆく〝異界〟の中で…全国でただ1ヵ所!賑わいを見せる「飛田新地」の現在
われわれがふだん生活する日常から切り離された場所、もしくは遠く歴史の彼方に置き忘れられたり、そもそもの成り立ちから人をまったく寄せ付けてこなかった場所──異界。『ルポ 日本異界地図 行ってはいけない!? タブー地帯32選』(風来堂・編著、清談社Publico)では日本に点在するそんな〝異界〟を紹介している。 【画像】これが…「メイン通り」「青春通り」飛田新地の案内図 同書では、「戦争、闇市」、「色街」、「産業、交通」、「自然」などのパートに分けて、松代大本営や福島第一原発、軍艦島など32地点の〝異界〟の歴史や現在の状況などが書かれている。今回はその中で「色街」のパートを担当した風俗ジャーナリストの生駒明氏に〝異界〟としての色街の現在について聞いた。 色街は昔から一般市民が生活を営む場所から区切られた場所に存在してきた〝異界〟だ。歴史的に色遊びの場は、1ヵ所にまとめてしまったほうが統治コストが良いために、時の権力によって生活空間から〝隔離〟されてきた。有名な例としては吉原などの遊廓や、「赤線」「青線」が挙げられる。 だが、近年では色街の存在感は年々薄くなっているように感じる。その理由について生駒氏は語る。 「やっぱり、デリバリーヘルスなどの出張型風俗の増加が一番大きな理由です。出張型風俗店が、数の上で主流になっていくにつれて、相対的に色街の利用者は減っていきます。さらに店舗型の風俗店の取り締まりが厳しくなったことで〝目に見える〟色街は減る一方です。 ですが、〝目に見えない〟新しい色街が登場しています。それが、デリヘル利用時の自宅やホテルの部屋です。それまでは色街に行かないと遊べなかったけど、今は自宅や、普通のビジネスホテルとか、シティホテルとかでも、色遊びができる形になった。 つまり〝空間次元の異界〟である色街に足を運んでいたのが、自宅の部屋や、ホテルの部屋が、一時的に〝時間次元の異界〟へと変化することによって色街の機能が分散されたのです。今後も厳しい規制によって、店舗型の風俗店が増えることは考えづらいです。リアルな空間での色街の存在が薄くなった分、ネット空間や時間次元での色街の存在は濃くなっています」 さらに若い世代ではデリバリーで遊ぶ人が増えていく一方で、ソープなどの店舗型で主に遊んでいた中高年がどんどんと年を取って遊ぶ人の数が減っていくことも、色街の需要減に拍車をかけている。それ以外にも、再開発などの時代の流れの中で、昔の面影がまったくなくなってしまう例もある。 「金津園(岐阜県)は歴史ある遊廓を基にしたソープ街で、20年ほど前には69店ぐらいが営業していました。駅からも近く、まさに雄琴(滋賀県)と並ぶ〝異界〟だった。それが区画整理でど真ん中に広い道路ができたんです。今では朝などに行くと通勤の人や女子高生など周辺の人たちが普通に通っているんですね。20年前だったらあり得なかった光景です。 まだ40軒ぐらい残っているので頑張ってほしいです」 また、かつては一大歓楽街だった名古屋駅西口も、リニア新幹線の工事で見る影もないという。キャバクラやヘルスが入っていたテナントビルが丸ごとなくなり、老舗のヘルスやエステが何軒かあるのを残すのみだそうだ。昔はピンサロがたくさん立ち並んでいた大阪の西中島も、現在訪れると目立つのは風俗案内所とアジア系のエステの看板ばかりだという。 そんな中で、現在でも〝異界〟として名残りをとどめている貴重な場所が、生駒氏が『ルポ日本異界地図』の中で執筆を担当した飛田新地(大阪府)と雄琴だ。 江戸時代にタイムスリップしたかのような風情を残す飛田新地は、大正7(1918)年にオープンした飛田遊廓が基になっている。オープン当初は最新の設備をそろえたモダンな遊びができる場所として繁盛した。昭和33(1958)年の売春防止法の完全施行によって遊廓は廃止され、料亭が集まる〝ちょんの間街〟として現在に至っている。 「飛田新地のすごいところは、街の中に人がいっぱいいるんです。あれだけ客の姿が路上にある〝歓楽街〟は全国を取材して歩いていても、もうないんですよ。 例えば吉原は店も多いし、女の子もいっぱいいて賑わっているんですけど、お客さんは大体店の中にいるので街にはお客の姿は少なく、静かです。飛田新地は予約ができないし、待合室もないからお客は路上をウロウロするしかないんです。目に見えて、日常の世界とは異なっている場所なんです」 では、なぜそんな〝異界〟が、取り締まりも厳しくなっているこのご時世に昔ながらの姿をとどめることができているのだろうか。 この続きは後編『「まるでテーマパーク」風光明媚な地に突如現れた〝異界〟「雄琴」に今なお熱心に通うお客がいるワケ』をご覧いただきたい。 『ルポ 日本異界地図 行ってはいけない!? タブー地帯32選』(風来堂・編著、清談社Publico)
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