PGAツアー中継でお馴染み、リアルタイムで弾道を可視化してくれるショット分析システム「ShotLink」がもたらしたゴルフ界への影響とは?【ゴルフメカニクス研究所 #4】
「おもしろさ」と「統計」の両立
こうしたシステムで全ショットを記録できるようになったことで、ゴルフ界にどのような影響を与えてきたと言えるのでしょうか? PGAツアーではかれこれ20年にわたってこうしたデータを蓄積しているわけですが、その中であきらかにティーショットの飛距離が伸びている一方で、「8フィート(約2.4m)のパットが入る確率は50%」なのはずっと変わらず、また「グリーンオン確率が50%を超えるのは、ラフからだと145ヤード以内、フェアウェイからだと205ヤード以内」といった普遍的な統計データがあることも分かってきます。 そう考えれば「松山英樹選手が250ヤードをウッドでベタピンしてイーグル」させることが、どのくらい難しいことだったのかも想像できます。つまり中継を見ている側の「おもしろさ」に貢献していることは間違いありません。 また以前の記事でも紹介したように、「その選手は何が優れているのか」をショットの部門別に数値化できる「ストロークゲインド」という指標も、このシステムがあるからこそ計測できるわけです。
またグリーンに着弾するボールの弾道も全て記録できていますので、ボールの落下角度によってどの程度ランが変わるのかも分かってきます。 最近の記事でもPGAでは「高いボールは稼げる(Height is Money)」ということを紹介しましたが、仮にパー5でツーオンができるとしても、グリーンに止まる高いボールで届かなければ意味がないわけで、そうした選手はレイアップの精度を高める必要があります。 逆に仮にラフに行ったとしても、150ヤード以内であれば十分チャンスにつけられる可能性があるのであれば、ドライバーを振りちぎるという戦略もありでしょう。まぁ、そういう戦略が「飛ばないボール議論」を引き起こしたとも言えるのですが……。
日本は日本のやり方を
このように統計を重視する考え方はいろいろ興味深い点は多いのですが、これをすぐに日本のゴルフ中継に導入するというのも簡単ではないことが想像できます。 ただいきなりお金をかけてそのようなシステムにしなくても、例えば選手個人に何らかのGPS機能搭載のデバイスをつけてもらって、各ショットを記録していくなんてことは可能かも知れません。 逆にアマチュアのほうが、昨今いろんなデバイスが登場していますので自分の飛距離や、各ショットの成功確率などをこまめに記録できるようになってきました。最初のうちは「コースでは思ったほど飛んでいない」と感じるかも知れませんが、こうした「統計的」視点を持つことでゴルフの楽しさの奥行きが拡がっていくと思います。
大庭可南太