子供たちの「肘」を守るために、ようやく全国に広がりつつある「野球肘検診」
「野球肘検診」が行われる
野球競技人口が激減し、特に少年野球のレベルでチーム、リーグ運営が成り立たないような事態になってようやく各地で「野球肘検診」が行われるようになった。 「野球肘検診」は小中学校で硬式、軟式野球をする男女の野球選手が対象だ。原則として高校生以上の野球選手は対象外となる。それは小中学校までと高校以上では、野球による障害の内容が大きく異なるからだ。「野球肘検診」は、主として小中学校の野球少年に特有の「肘関節の障害=野球肘」を発見するために実施される。 多くは、地域の整形外科医やPT(理学療法士)が、自身のクリニックにあまりにも多くの野球肘を抱えた子供がやってくることに危機感を抱いて始める。 医師やPT仲間を語らって会場を設置し、エコー検査機などの機器も手配し、近隣の少年野球チームなどに声をかけて始める。 多くの場合、医師、PTは「ボランティア」で、様々な経費も持ち出しになる。スポンサーを募ったりして、何とかイベントを維持している。 本来なら野球少年の健康維持のために行っているのだから、子どもの親や野球チームが負担するべきではないかと思うが、今、野球少年たちは無料で受診し、医療側が一方的に負担している場合が多い。 「野球肘検診」が始まった当初、多くの親や指導者はこの検診の目的を十分に理解しなかった。また「肘の障害がわかったら野球ができなくなる」と思う指導者も多く、中々受検者が集まらなかった。そんなこともあって、医療側がボランティアで行うスタイルが一般的になったのだ。
「検診に来ない指導者」が問題
今では新潟県、栃木県、神奈川県、兵庫県、京都府、奈良県などで大規模な「野球肘検診」が行われている。 こうした検診でOCDなど異状が明らかになった選手は、医師の紹介でクリニックなどに通って通院することになる。 またこうした「野球肘検診」では、参加率を上げることを目的として、管理栄養士による「栄養指導セミナー」や、各種の「トレーニング講座」なども行われている。 「野球肘検診」は、少年野球の指導者、子ども、親が一堂に集まる数少ない機会だから、単に「野球肘」の早期発見だけでなく、子どもたちを「野球障害」から守るためには親、指導者はどんなことをすべきなのか、さらには、子供たちの将来を考えた「野球指導」とは何なのかを考える機会になっている。 しかしある「野球肘検診」の主催者は言う 「声をかけて来る指導者は、数年経つとだいたい顔ぶれが決まってしまいます。そういう指導者は、自分たちで勉強もするし、十分にケアもしています。でも、何度呼び掛けても参加しないチーム、指導者もいるんですね。 検診でOCDが見つかったら、軽症でも半年は投げられなくなりますから、他の子供はみんな検診に連れてくるのに、エースだけ連れてこない指導者もいたんですね。 『野球肘検診』では、少年野球の段階で、どんな指導をすべきか、著名な指導者や専門家を招いてセミナーを行ったりするのですが、話を聞いているのは『意識の高い指導者』ばかりです。本当は、この場にいない指導者に聞いてほしいんですけどね」
安心して野球ができる環境を
アメリカでは、野球少年の長期的な、広範な調査、検診に基づいて、年齢別に1試合に投げることができる球数、登板間隔などを定めた「ピッチスマート」を設定している。 日本の少年硬式野球でもこれに準ずるルールを導入するところがでてきているが、一方で「勝利至上主義」的な指導も存在している。 子どもが安心して野球をすることができ、そして将来にわたって野球選手であり続けるためにも「野球肘検診」が、さらに広がることを期待したい。 また、医療関係者のボランティアではなく、野球界がこれを主体的に運営すべきだと思う。