いくら天才でも困った…『ブラック・ジャック』に出てきた架空の奇病
■成人男性が赤ん坊サイズに…「ちぢむ!!」
3巻収録の「ちぢむ!!」は、アフリカの奥地を舞台にしたエピソードだ。ある日知り合いの戸隠先生に呼ばれて遠路はるばるやってきたブラック・ジャックは、この地で「身体が縮んでいく奇病」が人間を含めた動物の間で流行していると聞かされる。 ライオンが猫ほどの大きさに、大人のゾウが子ゾウほどの大きさに次第に縮んでしまい、最終的には衰弱して命を落とす。相談してきた戸隠本人もこの病にかかっており、頼みの綱であるブラック・ジャックを頼ったのだった。 ブラック・ジャックははじめ乗り気ではなかったものの、戸隠から“きみも感染している可能性がある”と脅され、治療法を探ることになる。しかし彼が奔走するあいだにも戸隠の身体はどんどん縮み、ついには30センチほどのサイズに……。 この病は「縮む」以外の異常は出ないが、自分がだんだん小さくなっていくのは恐怖でしかないだろう。おまけに治療法も症状を遅らせる方法もなく、縮むところまで縮んだら必ず命を落としてしまう。 結局、ブラック・ジャックは病の原因そのものにはたどり着けなかったものの、動物たちの行動をヒントに「免疫血清」をつくって治療することを思いつく。しかしその頃には戸隠はもう手遅れだった。死を前にした彼は「この病気にはもともと正体なんかなかったのだよ」「これは……神の…警告だ…」と言い残す。 神の意思や自然の摂理といったメッセージは本作のなかでしばしば登場するが、このエピソードもそのうちのひとつ。ブラック・ジャックがラストで言い放つ「医者はなんのためにあるんだ」のセリフも非常に有名である。
■トラウマ級の描写も!?「木の芽」
最後に取り上げるのは、15巻に収録されている「木の芽」だ。青木幹男という名の男の子が、ある日突如身体から木の芽が生えてくる謎の症状に悩まされる。本人は意地でも隠し通そうとしていたが、唯一気付いていた兄の茂が心配してブラック・ジャックに手紙を送ってきたのだった。 幹男の症状はどんどんひどくなり、はじめは服で隠れる部分から生えてくるだけだったのが、顔や手からわさわさと葉が生えてくるようになる。同級生にも「おばけだーっ」と怯えられてしまうが、騒ぎを聞きつけた茂が人目のないところに連れ出し、事なきを得た。 弟を守る優しい兄の描写には終始和まされるが、幹男の全身が葉に包まれる段になるとそうも言っていられない。大量の葉に埋もれ身体が巨大化してしまった姿はトラウマ級である。これにはさすがの茂も怯えていた。 その後すぐにブラック・ジャックが駆け付け、すでに原因も見抜いていたために手術も無事に成功する。なんと幹男の身体にはサボテンが寄生しており、そのせいで芽が次々と生えてきていたのだ。 青木一家は以前ブラジルに住んでおり、そのとき夫妻は庭に生えていたサボテンをたいへん可愛がっていたらしい。それを聞いたブラック・ジャックは、サボテンには一種の霊感があるという話を持ち出し、家族が日本に帰るとき幹男に寄生して一緒に来ようとしたのではないかと推測していた。 ちなみにブラック・ジャックは治療費として茂から3万2000円(彼の貯金全額)を受け取ったのだが、「幹男くんに何か買ってやりな」と返してあげている。サボテンも青木家の庭に植えられたそうで、全体的にほっこりするエピソードだった。 『ブラック・ジャック』では今回取り上げた3つ以外にも、「99.9パーセントの水」や「本間血腫」など、実在しない奇病を扱うエピソードは数多い。時に大胆なフィクションを取り入れながら壮大な物語を描いた手塚さんの名作、ドラマ化をひとつのきっかけとしてあらためてチェックしてみてはいかがだろうか。
すがり