【中国VSブラジルの貿易論争】経済悪化の中国が世界に及ぼす影響とは?
G20議長国ブラジルの頭痛の種
「世界の工場」として世界第二の経済大国となった「中国」は、この20年近くの間に、世界の多くの国にとって最大の貿易相手国になった。この記事は、「コロナ以降、中国経済の不調が深刻化し、生産設備が過剰となる中、安値攻勢で製品輸出を増加させ、他国経済に悪影響を与えるようになっている。そして、各国は対抗措置をとるために調査を開始した」と報じている。中国経済の悪化が世界に与える影響を把握する上で重要な報道である。 09年以降、中国は輸出入ともに、ブラジルにとって最大の貿易相手国となった。2位は米国である。23年、ブラジルから中国への輸出総額は、大豆、食肉、石油、鉄鉱石など1043億ドル(史上最高額)であった。 ブラジルの中国からの輸入総額は532億ドル(機械類・電気機器、紡織用繊維、化学工業品等)であり、ブラジルの対中貿易黒字額は500億ドルを超えている。中国が大豆など食料や天然資源の備蓄を増加させているのは、気候変動や有事に備えているからとも言われている。 記事では、ブラジルによる中国製品アンチ・ダンピング調査の開始に触れているが、中国は逆に24年2月、19年からブラジル産鶏肉に適用していたアンチ・ダンピング措置の撤廃を公表した。ブラジル国内を「分断」しようとする「中国らしい措置」である。 今年、ブラジルは主要20カ国・地域(G20)議長国であり、また、中国との国交樹立50周年を迎える。来年は有力新興5カ国で構成するBRICS首脳会議と第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)がブラジルで開催予定である。昨年、中国との二国間貿易において米ドル排除を決定する等、中国との一層の関係強化を期待しているルーラ大統領にとって、中国製品のダンピングは間違いなく「頭痛の種」である。
また、22年、中国のブラジル向け直接投資は、09年以来13年ぶりの低水準となった。報道によると、22年中国が投資すると公表していたプロジェクト(47億ドル相当)の内、実行されたのは28%にととどまった。その一方で、外国投資家にとって、対中投資のメリットの減少に伴い、ブラジルが魅力的な選択肢になっているとも言われている。
日本は絆を作れるか
今年1月、岸田文雄首相のブラジル訪問が予定されていたが、政治資金問題が発覚して中止となった。5月の連休時、経済協力開発機構(OECD)でのスピーチ後、ブラジルとパラグアイ(南米唯一の台湾承認国)訪問を検討中と報じられている。 実現すれば、安倍晋三首相以来10年ぶりの現役総理の訪問となる。安全保障分野における中国の脅威についてブラジルの理解を深めてもらうことに加え、メルコスールとの自由貿易交渉開始など経済分野での進展、ブラジル日系社会との「絆」強化策が打ち出されること等が期待される。
岡崎研究所