親の寝顔を見て「もう目覚めなければいい」…追い込まれていく「ビジネスケアラー」の厳しい現実
子どもがやるべきことは直接の介護ではなく「プロのアシスト」
介護が難しいのは、要介護者一人一人に必要な介護があり、それぞれで違うこと。自分のためになる介護、自分らしく生きるための介護は本人にも見えていない。だからこそ、専門性のあるプロの客観的視点が必要だと、私たち子どもも理解するべきなのだろう。 もっとも要介護者とプロとのマッチングは運次第。経験不足や配慮不足のケアマネージャーやヘルパーに当たる可能性は十分にある。 そのため、子どもが親が気に入るまでケアマネージャーを探したり、デイサービスの数が少ない地域だからと都会への引っ越しを決断したりするケースもあるという。川内さんは言う。 「私はそこに子どもが責任を負うべきではないと思っています。その地域に住み、サポートを受けるのは要介護者自身。本人がどう受け入れるか、子どもは黙って見守るしかないと思うのです。 “その人らしく生きるための介護”は、プロだとしてもトライ&エラーを繰り返さなければ見えてきません。私も経験しましたが、実に難しい。最初から心を開いてくれるわけではないので、最適なアプローチ法がわかるまで、手探りで試してみるしかない。 その過程で重要になるのがご家族のアシストです。要介護者の性格、生活習慣、どういう生き方をしてきたのか、介護する側にはわかりません。そういった情報をご家族から伺い、これまでの人生とこれからの人生を想像する中で、生活維持のためのモチベーションが見え、本当に必要なケアに辿り着けるのだと思いますし、辿り着くまでのプロセスもまた、要介護者のためのケアなのです。そう考えると、やはり子どもがやり遂げること=いい介護とは言えないのではないでしょうか」 子どもがやるべきことは直接の介護ではなく、あくまでプロのアシスト。親が自分らしく生きられるよう適切な情報を提供し、介護体制を整えることにある。 会社の介護休業制度は、介護をするためではなく、こうした体制を整えるために活用するべきだという。 「多くのビジネスケアラーは、親の介護が必要になったとき、まず有給を使って介護に当たり、『もっと休まないと介護ができない』と慌てて初めて介護休業制度の申請をします。つまり、直接介護のために制度を活用している。それでは仕事を休む=介護を続ける手段になり、離職につながってしまいます。ですから、介護休業制度は、直接介護のためではなく、プロの方々と万全の介護体制を整えるために活用してほしいのです」 介護はある日、突然始まるケースも多い。親が元気なうちから、『介護=親孝行』というマインドをリセットし、介護が必要になったときに相談する“地域包括支援センター”の場所と、何をどうサポートしてくれるのか、その内容を確認しておきたい。 「電話1本でも構いません。親が暮らす地域には、どういうサポートがあるのかを尋ねてみてください。これだけでもしておくと、いざというときに相談しやすいと思います。また、勤務先に相談窓口がある場合は、まずはそこに相談するのがいいでしょう」 川内 潤 NPO法人「となりのかいご」代表理事。1980年生まれ。 上智大学文学部社会福祉学科卒業。 老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、’08年に市民団体「となりのかいご」設立、 ’14年にNPO法人化。 取材・文:辻啓子
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