ばらまかれた地雷や不発弾が避難できない市民の脅威に 非人道的なクラスター弾も「勝つためには仕方ない」…反転攻勢続くウクライナ東部ハリコフ州はいま
ロシア軍の侵攻に対し、ウクライナ軍が大規模な反転攻勢を始めてから3カ月が経過した。ウクライナ軍はロシア軍の生命線ともいえる補給路の遮断を目指し、南部で作戦を本格化する。一方のロシア軍は、一度は撤退した東部に再び兵力を集中しており、ウクライナ側の兵力分散を図っているとも指摘される。 ロシア軍の攻勢が強まる東部ハリコフ州では、前線に近い街でも一部の市民は避難できずに残留し、避難先から戻ってくる人もいる。その市民らに脅威を与えているのが地雷や不発弾だ。ハリコフ州の現状を報告する。(共同通信=文・平野雄吾、写真・深井洋平) ▽「砲撃に慣れた」前線の街 7月下旬、ハリコフ州クピャンスク。居住地域からロシア軍部隊までの最短距離が約8キロの近さに位置する。路上には市民よりも兵士の姿が多く、軍用車両が行き交う。 今も街にとどまるアンジェラさん(54)は「足の不自由な夫(55)がほぼ寝たきりで、避難できないんです」と理由を語った。残った市民の多くは高齢者とみられ、通りに子どもの姿はほとんどない。日本では災害時に高齢者や障害者の避難が課題となるが、同じ構図が戦地でも垣間見える。
クピャンスクは昨年2~9月、ロシア軍の支配下にあったが、ウクライナ軍が奪還した。地元行政トップ、アンドリー・ベセディン氏によると、市とその周辺で侵攻前の人口は約5万7千人だったが、現在は約1万2500人にまで減った。 ベセディン氏は「市民に避難を促していますが、できない理由がそれぞれにあります。残った市民を支えるのが行政の仕事です」と話す。元々の市役所には砲撃で被害があり、現在は地下シェルターの臨時庁舎で業務を続けている。電気やガスなど基本的なインフラは稼働しているが、市内の建物は4割が破壊されたままだ。 生活の維持も重要な課題で、多くの市民が職を失い、食糧や衣服、医薬品などを支援団体からの寄付に頼る。アンジェラさんも「薬局で働いていましたが、薬局そのものが砲撃でなくなりました」と肩を落とした。 日中は前線から爆発音が響き、夜間にはロシア軍の砲撃が住宅地にも頻繁に届くクピャンスク。「砲撃には慣れた」と話す市民もいるが、地元の非常事態庁幹部セルギー・オスマテスコ氏は「地雷や不発弾で負傷する市民が後を絶たない」と明かし、ロシア軍撤退地域の厳しい現状を指摘する。