WAT'S GOIN' ON〔Vol. 1〕蠢動する青森ワッツ 次世代の国内プロバスケットボール・チームのありかた
常勝だけがプロスポーツチームの存在意義なのだろうか…既存のプロスポーツ観に逆らうようにBリーグ誕生以前から活動を続ける不思議なプロバスケットボールチーム《青森ワッツ》の魅力に迫る。台湾プロバスケットボールリーグの新竹ライオニアーズとのグローバルパートナーシップ締結など、アリーナに収まらない活動を開始した青森ワッツが地元青森にどのような波及効果をもたらし得るのか、また、いかにしてプロスポーツチームのあり方を刷新してゆくのか、その可能性を同チームの歴史とともにリポートする。〔全13回〕
青森ワッツという不思議
昨シーズン、チーム創設10年目にして初めて、Bリーグのプレーオフ(B2)進出を果たした青森ワッツは直前に躓いた。今シーズンの開幕戦まで1カ月を切った9月18日、パワーフォワードとしてチームを支えるはずだったマックス・ヒサタケが突然、茨城ロボッツへ移籍したのだ。契約上の話でいえば、もちろんヒサタケに非はない。 ヒサタケとワッツの間で交わされた契約書には「他チームから、ワッツよりも好条件のオファーがなされた場合、契約を解除できる」旨の項目が存在していた。茨城は、今シーズンの主力として期待していたヘンリー・エレンソン(怪我で離脱)の代役として、ヒサタケに目をつけたのである。B2のワッツから、B1のロボッツへ(2023年12月15日現在フリー)。試合のレベルとしても、報酬の面からも、プロのバスケットボールプレイヤーであれば、誰しもB1のチームを目指すだろう。 他方、ワッツがヒサタケの穴を埋めるのは容易ではない。昨年、プレーオフに進出したものの、一昨年、一昨昨年とワッツはB2で最下位に沈んでいるからである。にもかかわらず、チームの創設以来、地元・青森県民のワッツへの期待感は高止まりしたままだ。その特殊性は、チームの収支にも表れている。
コロナ禍中でも、黒字
たとえば2021年、コロナ禍中のBリーグでは観客動員数が激減し、赤字に転落したクラブが計17チームに及んだ。そんな中、青森ワッツの数字はどうだったか。コロナ前の2018-19シーズンの総観客動員数は約4万1千人。翌シーズンはコロナ禍の影響によって、初めて3万人を割り込み、2020-21シーズンには2万人を割り込む事態に陥った。1試合平均の観客数は、わずか710人。ところが、それでもチームは黒字を維持することに成功したのである。 幸運なのか、粘り強いのか。開幕間近でマックス・ヒサタケを失った危機は、さらに直前のジョーダン・ハミルトン*獲得によって帳消しどころか、戦力アップにつながった。 *米国テキサス大学出身の元NBAプレーヤー 本連載では、Bリーグ誕生のときから参戦を続けるこの不思議なチームの魅力に迫り、台湾プロリーグの新竹ライオニアーズと締結したグローバルパートナーシップなど「新たな挑戦」を始める今シーズンを通して、ワッツが地元青森にどのような波及効果をもたらし得るのか、その可能性をリポートしていきたい。