トランプ政権を揺るがした女性の実話を元にした映画『リアリティ』をレビュー
海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、アメリカを揺るがす内部告発者となった25歳の女性の実話を元にした映画『リアリティ』をご紹介します。彼女はなぜ、ある日突然国家の反逆者となったのか? 今 祥枝がレビューする【おすすめシネマ】 フォトギャラリー
『リアリティ』
■アメリカを揺るがす内部告発者となった25歳の女性の実話 2017年、25歳の女性リアリティ・ウィナーが、“第二のスノーデン”とも言われる内部告発者となった。 米国家安全保障局(NSA)の契約社員だった彼女は、ロシアのハッカーによる’16年米大統領選への介入疑惑に関する報告書をメディアにリークしたのだ。「トランプ大統領誕生は、ロシア政府によって操作されたものだったのか」というニュースの衝撃を記憶している人も多いのでは。 罪状は、国家機密の漏洩。主にアフガニスタンとパキスタンに居住する民族が使用する言語であるパシュトー語のほか、ペルシャ語、ダリー語にも堪能で、元軍人のリアリティ。アメリカ政府機関に諜報関連のスペシャリストを派遣する企業から配属された彼女は、誰が見ても才気にあふれる若者だった。 そんなリアリティが、なぜキャリアも人生も危険にさらす、このような大胆な行動に出たのか? 新進気鋭の劇作家、ティナ・サッターが、自らの舞台劇を映画化して監督デビューを飾った『リアリティ』は、彼女がFBIに逮捕された際の、実際の尋問音声記録をほぼリアルタイムで再現した82分の意欲作だ。 リアリティが買い物から帰宅すると、家の前で見知らぬ二人の男性から笑顔で声をかけられる。穏やかな口調の彼らは、やがてリアリティを自宅の静かに話せる部屋に移動させて、核心に迫っていく。「その瞬間の空気感を記録文書から読み取れるとおりに表現したかった」と語るサッター。次第に緊張感が高まり、リアリティのじりじりと追い詰められていく心理が、手に取るようにスクリーンから伝わってくる。 しかし、本作のキモは「何が彼女をそのような行動に駆り立てたのか」という点にあると思う。FBIの質問に答える過程で浮き彫りになるのは、エリートたちが集まる職場での彼女の言い知れない焦燥感、あるいはトランプの世界となったアメリカと社会への不満と不安。国家に対する複雑な思いと自身のキャリアへの悩みは珍しくはないだろう。では、彼女が考える“正義”とは? リアリティは典型的なミレニアル世代としてレッテルを貼られることも多い。しかし、なぜ若者がこうした行動を取るのかについて考えることには、今の社会を考える上で、多くの重要な視点を与えてくれるのではないだろうか。 主演は、ドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」や映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などで注目の若手俳優シドニー・スウィーニー。リアリティが持つユーモアや知性、タフさを伝えながら、等身大の若者として好演している。 監督・脚本/ティナ・サッター 出演/シドニー・スウィーニー、ジョシュ・ハミルトン 公開/11月18日(土)より、シアター・イメージフォーラム、シネ・リーブル池袋ほか全国公開 ©2022 Mickey and Mina LLC. All Rights Reserved.
●ナビゲーター 今 祥枝 海外エンタメが大好きなライター。一年365日、映画&ドラマざんまいの日々。 ※BAILA2023年12月号掲載