【短期連載】a flood of circleのドラマー渡邊一丘が語るバンドの〈今〉。そして次なる目標、武道館への想い
ファースト・フルアルバム『BUFFALO SOUL』でメジャーデビューを果たしてから15年。これまでの歩みを刻み込んだ10年ぶり2度目となる日比谷野外大音楽堂でのライヴを経て、a flood of circleはどう転がっていくのか? 現在ニューアルバムを制作中でもある彼らの〈今〉を捉える短期集中連載、そのトリを務めるのは、ドラムの渡邊一丘。このバンドのオリジナルメンバーであり、紆余曲折ありながらも、佐々木とともに歩み続けてきた彼が思う、a flood of circleの未来に必要なものとは?
武道館を決して夢だけにするつもりもない
ーー野音、お疲れさまでした。 「トラウマになるくらい暑かったですねえ。〈野音〉って言葉、まだ聞きたくないくらい暑かった(笑)。きっと当日はかなり暑くなるだろうなと思って、スタジオで練習する時、クーラー切って練習してたんですよ。でも間違ってました……暖房つけてやるべきでしたね(笑)」 ーーしかも曲数、かなり多かったですしね。 「セットリストが……エベレストみたいな感じでしたね」 ーーどういう意味ですか?(笑)。 「曲を確認するたびに、まだ3合目か、みたいな(笑)。7曲目で〈あ、まだ4分の1も終わってない……〉って。それが一番心が挫けそうになったタイミングでした」 ーー10年前にやった野音ライヴのこと、覚えてます? 「前回は違う意味で覚えてないですね。あれよあれよという間に自分のキャパシティをオーバーして、頭が追いつかなかった。野音デカいなーと思ってたし。でも今回はジャストって感じでした。みんな手が届きそうな距離にいるみたいな感覚があって、それがすごくよかったです」 ーー今回の野音が終わって感じたことは? 「だいたい野音みたいな大きな会場って、ツアーファイナルとかのタイミングでやるじゃないですか。だから〈あの時、ああしておけばよかったな〉って反省して、区切りをつけて〈よし、次のツアー頑張ろ!〉って気持ちになるんですけど、今回はそれがなくて。なんかまだ続いてる感じがしますね」 ーーそれは何でだと思いますか? 「本当のツアーファイナルが武道館だからじゃないですか?」 ーーいいこと言う! さすが山家(註:渋谷の老舗居酒屋)で佐々木とサシ飲みしただけはある(笑)。 「あれがいいきっかけになったのかな(笑)。でもあの時、『ここから先、共通の目標みたいなものはあったほうがいいよね』って話して」 ーーダラダラと続けるつもりもないから、と。 「まあそうですね。でも俺も、佐々木とバンドを続けたいから、そういうことを言ったんで。だから野音が終わって思ったのは、〈これじゃ武道館できないな〉ってことでした」 ーーというのは? 「前も話しましたけど、佐々木だけが頑張っててもダメなんですよ。そういう意味では、まだあいつにおんぶにだっこ。でも、何もできてないからダメじゃなくて、みんな、自分は何ができるだろう?ってモードになって、行動しようとしてる気はしますね」 ーーそれはどこに感じるの? 「ライヴもレコーディングも、いい意味で決めこまず、固定概念に囚われないようにやろうとしてるところかな。やっぱ同じことを重ねても変わらないのでね。全力で振り切って、たとえうまくいかなかったとしても、すごく面白い形で盛大に大コケしたいんですよ(笑)」 ーー確かに決め事はなくなってきたよね。 「ライヴでも、今までのフォーマットみたいなものはなくなりましたからね。それぞれが面白いと思うことをやってる。まだ過程でしかないけど、みんな向かおうとしてるところは同じだから。そのきっかけを各々が作っていければいいんじゃないかな」 ーー新曲のレコーディングを山奥のキャンプ場でやったことも、その流れに近いですね。 「そうですね。最初に、山小屋に機材持ち込んでレコーディングやる、って聞いた時は、どうなることやらって思ったけど、いつもと同じようなスタジオで、いつもと同じようにやっても煮詰まるだろうし、ワクワクしないから。でもそれがいい方向に転がったと思います」 ーーレコーディングはどんな感じでしたか? 「まず音が、拍子抜けするくらいいいんですよ(笑)。もっとキャンプ場の山小屋でやってる感じが出てもいいのに、と思ったくらい。天井が高くて抜けもいい。山小屋に楽器や機材入れてみたら、スペースの問題で、エンジニアさんのいる場所が洗面所になったり、テツのギターアンプはトイレに置くことになったりしたけど(笑)、そういうのをみんな面白がってやれたし」 ーーそこで録ってどういう音になるかというより、メンバーがそこで何を一緒に作るか、に意味があったんでしょうね。 「どうしたって一体感が生まれましたからね。朝10時ぐらいからレコーディングして、アンプやドラムの音出しOKな時間が夜の8時ぐらいまでだったので、そこからは焚き火(笑)。佐々木はトレーラーハウスみたいなところで歌詞書いてたけど、俺らは朝4時ぐらいまで呑んで(笑)。みんなちょっと離れたコテージで寝て、俺とエンジニアの池内さん、あとプロデューサーの勲さんは、スタジオにしてた山小屋に寝袋を敷いて寝ました」 ーーははははは。 「そして朝8時に起きて、みんな揃ったらレコーディング。そういうのがよかったと思いますね。しかも曲の作り方も、佐々木が作ったデモをなぞっていくんじゃなくて、4人でひとつのものを形にしていく作業ができたし。勲さんが潤滑油になってくれて、みんながちゃんとバンドに向き合ってたから、いい曲ができていったんだと思いますよ」 ーー武道館という目標もはっきりとして。 「今回の野音が終わって、やらなきゃいけないこと/やったほうがいいことっていうのが明確になってると思うんですよ。メンバー同士はヒリヒリした緊張感を持ちつつ、同じ方向に向かおうとしてる。それがいい気がしますね。これからのひとりひとりの行動で、未来が変わってくると思うから。各々何ができるか、だと思うんですよ」 ーーナベちゃんは具体的にどういうことをやっていくべきだと思っていますか。 「見どころを増やす。すげぇ真面目なこと言って全然面白くないですけど(笑)、佐々木は見どころの塊じゃないですか。なんか、ハイライトマンみたいな」 ーーハイライトマン(笑)。 「それを背負ってる人ではありますけど、そのハイライトが、もっとバンドのいろんなところにあってもいいなって思うから」 ーーちょっと翻訳すると、佐々木以外のメンバーも、もっと見どころを増やしていくべきなのでは、ってこと? 「そうそう、そうです。みんなハイライトマンになるべきだな、って。今、9月7日にやる俺の誕生日ライヴの練習をしてて(註:インタビューは8月後半に実施)、フラッドの曲もいくつか唄ってみようと思ってるんですけど、いざやってみると〈なるほど、佐々木はこういうふうに思ってるのか〉とか〈こういうふうに曲ができてるのか〉と思って、俺のプレイもちょっと変わったりする」 ーーなるほど。 「他の人の意見とか考え方を知るというか。マジで井の中の私、なので。あと野音のドラムソロの意図としては、俺だったらライヴ中の3時間、ずっと佐々木を見ていたくないなと思って(笑)。一瞬でもみんなの気を休められるシーンを作りたいなと思ったんですよ」 ーーでもそういう意見を言えるようになったのは、すごくナベちゃんの成長だと思う。 「そうかもしれないですね。やっぱ佐々木みたいな、ずっと二郎系のこってりだと、味変しないと厳しい気がして(笑)」 ーー今までは自分も、二郎系のこってりしたところを〈みなさんに味わってもらわなきゃ!〉って感じではいたけど。 「うん、〈その味を引き立たせないと!〉と思ってましたよね。今でもそういうところはあるけど、視点をズラしたほうがいいこともあるよなっていうか。〈俺はにんにく!〉って感じで、自分なりの味を出していいよな、と思ってて(笑)」 ーー俺も、ハイライトマンになるぞ!と。 「なんか新曲できそうだな。〈ミスターハイライトマン〉(笑)」 ーーはははははは。 「今はみんなそういう意識があるような気がするんですよね。だからいい状態でバンドがいられる気がするし。武道館っていうのも、決して夢だけにするつもりもないんですよね」
金光裕史(音楽と人)