習志野OB掛布氏もサイン盗み疑惑騒動に複雑心境
掛布氏は、こういう騒動が起きていることを知らずテレビの勝利インタビューで「こういう勝利は子供たちの成長につながる」と語っていた小林監督のコメントを聞いて、その姿勢を支持していたという。だが、マスコミからサイン盗み疑惑が起きていることを知らされ、習志野野球部OBの同級生と連絡を取り合った。 「小林監督に直接連絡をとって真偽を確かめるべきか」との意見も野球部OBの間で広がったが、掛布氏は、慎重に対応することを決めた。小林監督は習志野のOBで市立船橋高で監督を務めた後、習志野で指揮を執り、就任12年目となるベテランの指導者。掛布氏も何度か会っているという。 千葉の市立高校である習志野は、甲子園に春4度、夏8度出場の名門で1967年、1975年と、2度夏に全国制覇を果たしており、主なプロ野球OBに元中日の谷沢健一氏、ヤクルト監督の小川淳司、ロッテの福浦和也らがいる。 「繰り返しますが、現時点で審判団と高野連は“問題はなかった”と判断しました。今後の再発防止のためにも真偽は検証されるべきでしょうが、もし“問題がなかった”のであれば、サイン盗み疑惑の問題と、この試合の勝ち負けは分けて考える必要があるのかもしれません。動揺があったのは星稜も習志野も同じだったでしょうし“習志野バッシング”が続く中、ここは、冷静に対処すべき部分ではないでしょうか」 “加害者”としての疑惑を持たれる習志野のOBとして掛布氏も複雑な心境だ。もし事実ならば大問題だし“潔白”であるなら習志野の名誉を回復してあげなければ準々決勝以降の戦いが虚しいものに変わる。 近年、高校野球では、プロ顔負けのデータ分析が進んでいる。ベンチの監督から出るブロックサインの判読や、投手の癖から球種を読むことなどを行い、特別な班を編成して戦略として行っているチームもある。監督に指示されるのではなく、選手が自発的に行うケースも少なくない。それらは、ルールに基づいた行為であれば、弱者が強者を倒す立派な戦略であり技術である。だが、行き過ぎるとフェアプレー精神違反に抵触するような行為となる。そこの明確な線引きは、指導者が注意深く行うべきであるし、掛布氏が主張するように「何のために野球をするのか」「何のために勝利を目指すのか」という理念を常に確認して、おかねば“暴走”を生み出すことにもなる。 いずれにしろ今回の問題を行き過ぎた高校野球の勝利至上主義への警鐘として全国の指導者は真摯に受け止める必要があるし、高野連も、このまま審判団の判断を最終結論として“ウヤムヤ”に終わらせてはならないだろう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)