蓬萊(1月15日)
紀元前221年、秦の始皇帝は初めて中国統一を成し遂げた。万里の長城を整備したことで知られるが、絶大な権力を手に追い求めたものがある。「不老不死」▼ある男から持ちかけられた。「海の中に三つの神山があって仙人が住んでいる。探してきます」。始皇帝は男に数千人を付け、探索プロジェクトに乗り出す。狙いは仙人が持ち、老いと死を免れるとされる霊薬だった(池上正治著「徐福」)。後世に名を残す為政者は不滅の皇国を夢見ていたのだろうか▼三つの神山のうち一つを蓬萊と言う。仙人が住むとは縁起が良いと、福島市蓬萊の名にもつながった。ニュータウンとして昭和の時代に開発されたが、人が減り、ショッピングセンターには空き店舗も…。「何とかしたい」。住民有志が仲間を募り、活動を始めた。落ち着いた環境で心豊かに暮らせる―。魅力を打ち出し、転入者増を目指す▼見果てぬ夢だったか。始皇帝は莫大[ばくだい]な費用と労力を投じながらも霊薬を手にできなかった。令和の蓬萊の取り組みは、その目にどう映るだろう。未来を明るく照らそうと、懸命に駆け回る住民の熱意に感じ入るに違いない。地域の不老不死をかなえてくれると。<2024・1・15>