JR芸備線の存廃問題! 「鉄道の役割を終えた」はそもそも本当か? 実態から浮かぶ“利用したくてもできないダイヤ”という存在
「利用者いないから廃止」という短絡さ
芸備線の閑散区間については、現在は鉄道と比較してもバスのほうが利便性の高い状態ではあるが、それでも鉄道があることによって一定の来訪者を芸備線に引き付けているにもまた事実である。筆者は3月下旬の週末に岡山県側の備中神代駅から芸備線に乗車したが、1両編成のディーゼルカーには立ち席客がでるほどの乗客で混雑していた。 また、昨今、表面化しているバスドライバー不足問題から地域の公共交通の持続可能性の面では疑問符が付く。警察庁が公開する2023年版の運転免許統計によると、路線バスを運転できる大型2種免許の年代別保有者比率は50代以上が84.3%を占め、これからを担う30代以下の保有者はわずか 「4.2%」 にとどまっている。前年版では50代以上が84.2%だったことから0.1ポイント増加したことになり、バスドライバーの高齢化問題は年々深刻化の一途をたどっている。 2024年3月26日に開催された芸備線再構築協議会では、JR側の「大量輸送という鉄道としての特性を発揮できていない」という主張と、自治体側の「鉄道は地域に欠かせない」という主張が対立する形となった。しかし、地域住民や観光客が利用したくても利用できない状態に利便性を低下させておきながら 「鉄道としての特性を発揮できていない」 とするのはいかがなものだろうか。地域への観光振興の切り口で考えた場合には、鉄道を生かしたほうが成果を出しやすいことも事実である。福島県の只見線のケースでは、会津川口~只見間を上下分離の上で、福島県が只見線を日本一の地方創生路線とすることを目標に掲げ、さまざまな取り組みを行ったところ同区間の輸送密度が100人未満にもかかわらず、年間の鉄道維持費約5.5億円に対して、福島県内への観光や商工業の経済波及効果が鉄道の年間維持費を上回る約6.1億円であったことが公表されている。 この経済波及効果の数値には含まれてはいないが、県外の観光客が只見線に乗りに行くためには、当然JRの新幹線などを利用することから、JR側にとっても新幹線などへの新たな潜在需要を開拓でき増収に寄与できる話でもあり、これは芸備線に置き換えて考えても、観光路線化により伯備線の特急列車や山陽新幹線の 「潜在需要の開拓」 に直結する話である。芸備線の再構築協議に当たって必要なことは、輸送密度の極端に少ない線区だけを切り出して費用負担の話を押し付けあうことではなく、地域経済の活性化と在来線特急や新幹線などJRの既存路線の潜在需要の開拓に結び付けるために、鉄道ネットワーク全体を生かすという視点で芸備線をどのように前向きな形で活用していくのかという建設的な議論なのではないだろうか。
櫛田泉(経済ジャーナリスト)