「スギ花粉飛散は例年より多い」のに…“花粉症持ち”の人を憂うつにさせる「深刻なクスリ不足」の実態
今年も花粉症のシーズンがやってきた。スギ花粉は例年並みか例年より早めの2月上旬には九州から関東の一部で飛散が始まり、同月下旬から3月下旬にピークを迎える。飛散量は例年(過去10年の平均)に比べ九州から東北のほとんどの地域で、例年並みか例年よりやや多く、北海道は非常に多い見込みだという。ある医療関係者はこう明かす。 かまいたち山内も試して3カ月で8㎏減 糖尿病治療薬を健常者がやせ薬として服用する本当のヤバさ 「花粉症を持っている人には憂うつな季節でしょうが、今年は憂鬱に拍車をかける事態が待ち構えているんですよ」 どういうことなのか。医療機関でも薬局でも、深刻なクスリ不足が起きているのだ。 問題が顕著化したのは昨秋のことだった。コロナ禍で感染症対策が徹底された影響で、この3年間最小限に抑えられていたインフルエンザの流行が早まり、例年なら年明けから増える感染者が9月末から急増した。一気に風邪薬等の需要が高まったわけだが、まさかの品薄で、咳止め薬も痰切り薬も欠品状態。必要な患者に必要なクスリが供給されない前代未聞の「日本じゃないみたい」な状況になっている。 「年明け、息子を病院に連れて行き、咳止めをもらいに薬局に行って驚きました。『咳止め薬はありません』と張り紙がしてある。軽くパニックでした」 これは正月休み、本誌編集部の男性が実際に体験した話だ。男性は複数の薬局を回ってやっと目当ての薬を入手することができたが、薬剤師からは「次回もご提供できるとは限りません」と告げられた。「手に入らなかったら、うちの子はどうなってしまうんでしょうね」と、男性は不安を隠せない。 とはいえ、こんな深刻な状況も、自分もしくは家族が風邪でも引かない限り、所詮は他人事。では、今や日本人の2人に1人が発症する国民病「花粉症」のクスリならどうだろう。 日本ジェネリック製薬協会のホームページにアクセスし、クスリの供給状況のデータベースを調べてみた。検索できるのは原則、「出荷停止」もしくは「限定出荷」状態にある製品だ。あまり知られていないが、今や処方薬の8割以上はジェネリック医薬品が占めている。クスリ不足は即ちジェネリック医薬品不足なのだ。 花粉症のクスリには、アレルギー症状を抑える抗ヒスタミン薬、目のかゆみや充血に効く点眼薬、鼻水、鼻づまり、くしゃみに効果を発揮する点鼻薬などいろいろあるが、データベースでは「モンテルカスト」「フェキソフェナジン塩酸塩」「クロルフェニラミンマレイン酸塩」といった有効成分名で調べることができる。 検索してみると、モンテルカストは59製品中50製品が「供給停止」もしくは「限定出荷」、クロルフェニラミンマレイン酸塩は16製品中11製品が「供給停止」「限定出荷」、フェキソフェナジン塩酸塩は38製品中半数にあたる19製品が「限定出荷」「供給停止」と、軒並み心細い状況であることが分かった。ちなみにモンテルカストは1日1回の投与で済み、かつ眠くなりにくいといった特徴があり、よく処方される点鼻薬。フェキソフェナジン塩酸塩は第二世代と呼ばれる抗ヒスタミン薬で、眠気が非常に少なく効き目がマイルドだという。 咳止め薬と痰切り薬の不足が問題になった昨年10月、国は不足している薬を製造する主要メーカーに対して、在庫の放出や緊急の増産を要請したが、日本製薬団体連合会が全医療用医薬品を対象に行っている調査では、10月から12月にかけて3ヵ月連続で医薬品の供給状況が悪化したことが分かっている。 薬の供給が不安定になり始めたのは3年ほど前、小林化工による爪水虫治療薬への睡眠導入剤成分混入事件がきっかけだった。事件を機に、日医工や長生堂製薬、共和薬品工業など複数の後発医薬品メーカーで不正製造が次々と明るみになり、相次いで行政処分が行われた。その結果、多くの製品が限定出荷や出荷停止となり、その影響で問題を起こしていないメーカーに注文が集中。多くのメーカーで供給を制限する状態が続いている。製薬会社の関係者はこう明かす。 「背景には、’15年に政府が掲げた、ジェネリックの普及率を80%とする市場拡大目標の影響があるのではないかと言われています」 プレッシャーに耐え切れず薬の供給を優先し、品質をおろそかにする企業が相次いでしまったというのだ。 ’05年に改正された薬事法も大きく影響している。 「それ以前の制度では、医薬品販売を行う業者は、製造工場を持つことが義務づけられていました。しかし改正後はすべての製造工程を外部業者に委託することができ、販売業と製造業を完全分離することが可能となりました。つまり、工場と販売が分離され、大幅なコスト削減が可能になったことによって、工場を持たない販売業者が200社以上も誕生したので、一気に市場が拡大したんです。その結果、競争が激化して、そのしわ寄せが工場を持っている企業に行ってしまったことは否定できません」(前出の関係者) 昨年5月、新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行後、不足が一層深刻化する中で、昨年10月には、ジェネリック御三家の一つ、『沢井製薬』の品質確認試験の不正も明らかになった。工場が不足しているものの、新設するには時間も資金もかかる。ただ、ジェネリックは薬価が低く市場の成長も見通せないことから、多額の設備投資もやりにくい、というジレンマに陥っている。 業界としては安定供給したくてもできない状況は今後もしばらく続くだろう。今年の花粉症シーズンは、例年にも増して厳しいシーズンになりそうだ。 取材・文:木原洋美
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