ジープ・アヴェンジャー 詳細データテスト 低重心ゆえの良好な操縦性 日常的な乗り心地には注文あり
はじめに
デザイナー陣は、傍観者を納得させる仕事はまずまず成し遂げたが、アヴェンジャーは典型的なジープではない。まずはゼロエミッションのコンセプトカーが公開され、ジープ初のピュアEVとして商品化されたのだ。さらに、デザインから技術開発、生産に至るまで、すべてアメリカ国外で行われた。中心となっているのはイタリアとポーランドのティームだ。 【写真】写真で見るジープ・アヴェンジャーとライバル (15枚) 寸法面でも新しい側面がある。1940年代のウィリスを除けば、ジープ史上最小のモデルだ。ちなみに、第2次大戦の戦場を62psで走り回ったジープの始祖は、アヴェンジャーより腕一本分くらい短い。 特徴的な7スロットグリルや短いオーバーハング、斜に切ったプロポーションはラングラーを思わせるが、プラットフォームはオペル・コルサと共通だ。これらをすべて考え合わせると、リアルなジープだと呼べるのか疑問が湧いてくるのも当然だ。 アヴェンジャーが掲げる狙いを達成する上で、14ブランドを擁するステランティスは、ジープ純粋主義者の考えは考慮しないこととしたようだ。このクルマの使命は、欧州市場において、ジープブランドの再定義と、遅々として伸びないセールスをイタリアで根強いジープ人気を頼みにして拡大することにあるのだ。 となれば、この新型ジープが小型クロスオーバーという形式をとったことに驚きはない。欧州ジープを率いるアントネラ・ブルーノ曰く、これは「正しいときに送り出した正しいクルマ」だ。 英国市場へはガソリン車とマイルドハイブリッドが導入されているが、今後の販売は、今回テストするBEVが中心的な役割を担っていくことになるだろう。フォードやルノー、スマート、そして中国や韓国の競合モデルひしめくセグメントで、新世代のジープは勝ち抜ける実力と魅力を備えているのだろうか。
意匠と技術 ★★★★★★★☆☆☆
欧州ジープのデザイン部門長であるダニエレ・カロナチは、ブランドのDNAを全長4mほどのクルマに詰め込んだ。シルやバンパーを幅広いクラッディングで飾ったのも、前後スキッドプレートをシルバー塗装ではなくアルミパーツとしたのもそのためだ。 また、アヴェンジャーの最低地上高はクラス最大級だ。200mmというのは、軽カーながら本格クロカンと認知されるスズキ・ジムニーより10mm少ないのみ。ただし、駆動方式は前輪駆動だ。 生産はステランティスのポーランド・ティヒ工場で、新型モジュラープラットフォームのe-CMP2をベースとしたはじめてのモデルとなる。現在ではシトロエンe-C4やDS3クロスバックE-テンス、ヴォグゾール/オペルの電動版コルサやモッカにも採用され、プジョーのe-208とe-2008もその仲間に加わった。 新型プラットフォーム採用の利点としては、オーバーハングが短く四輪が踏ん張った塊感のある外観を、衝突時の衝撃吸収性能を損なわずに実現したことが挙げられる。ホイールトラベルも改善され、タイヤ幅のキャパシティも広がった。テスト車は最上位機種のサミットで、スクエアなアーチには見栄えのいい18インチホイールと215幅のタイヤが収まる。 サスペンションはパッシブで、フロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビーム。ステランティスのこの手のモデルでは、典型的な設定だ。 フロントに積む他励同期式モーターは、このクルマで初導入された。ステランティスと日本のニデックとの合弁であるeモーターの処女作だ。従来方式より高効率とされ、156psと26.5kg-mを発生する。 このサイズのクルマとしては十分な動力性能だと言えるが、54.0kWhの駆動用バッテリーのわりには重いウェイトを考えるとインパクトは足りない。テスト車の実測値は1601kgで、重すぎるわけでなく、重心は低めだが、1.2Lガソリンモデルの1182kgより車両重量はかなりかさむ。