チャバネゴキブリはいつどこで生まれ、世界をどう征服したのか、250年来の謎をついに解明
チャバネゴキブリの進化
過去2000年間でチャバネゴキブリがどの程度変化してきたかを知るには、彼らに最も近い現生種であるオキナワチャバネゴキブリと比較してみればよい。 一見したところ、彼らは今も非常によく似ているが、行動は大きく異なる。 オキナワチャバネゴキブリは光源に向かって飛ぶ一方、チャバネゴキブリは大慌てで遠ざかると、米カリフォルニア大学リバーサイド校の都市昆虫学者チョウヤン・リー氏は言う。また、これら両種を空中に放つと、オキナワチャバネゴキブリは飛び去るが、チャバネゴキブリは地面に落ちて走り出す。 「長い間、オキナワチャバネゴキブリはチャバネゴキブリの祖先だろうと推測されてきましたが、今回の論文によってそれがほぼ確定したのはすばらしい成果です」とリー氏は言う。 この研究からはまた、チャバネゴキブリの遺伝子に人間との関係が反映されていることも明らかになっている。 たとえば、シンガポールやオーストラリアのチャバネゴキブリは、地理的に近いインドネシアにいるチャバネゴキブリよりも、米国に生息するものと近い関係にある。これはおそらく、歴史的に、米国がインドネシアよりもシンガポールやオーストラリアと貿易を多く行ってきたためと考えられる。 「ここには人間の活動、商業、戦争、植民地化と、適応能力の高い家屋害虫の拡散との関係が見事に表れています」と、論文の共著者である米ノースカロライナ州立大学の都市昆虫学者コビー・シャル氏は述べている。
「最も尊敬する生物」
チャバネゴキブリは行く先々でほかのゴキブリを打ち負かしてきたと、タン氏は言う。 成功の理由のひとつとして、チャバネゴキブリは大半の種よりも速いペースで繁殖する。そのおかげで彼らは殺虫剤に対する抵抗力をすばやく獲得できる。 これまでの研究では、人間が何年にもわたり、ブドウ糖(グルコース)を混ぜた毒でゴキブリをおびき寄せて駆除しようとしたせいで、その糖分たっぷりの罠を生き延びたチャバネゴキブリから、ブドウ糖を避ける新たな系統が生じたことがわかっている。 「これは信じがたいことです」とリー氏は言う。「ブドウ糖はあらゆる生物にとって重要な代謝燃料なのですから」 リー氏らは、新しいゴキブリ駆除用の物質の開発に取り組むこともあるそうだが、研究室内でゴキブリを使った試験を行うころには、彼らはすでに耐性を獲得しているという。 こうしたゴキブリの能力と現代の優れた輸送網を考えると、人間が近いうちにゴキブリを退治する方法を見つけられるという希望はほとんど持てないと、リー氏は言う。 「私が最も尊敬する生物をひとつ選ぶとするなら、それはおそらくチャバネゴキブリになるでしょう」と氏は述べている。
文=Jason Bittel/訳=北村京子