「20年以内にスゴいことになる」ブタの臓器を人間に移植⁉実は日本が一番進んでいた「臓器もどき」のヤバすぎる研究内容
ブタの体にヒトの臓器を
それからサイラの長船健二先生の研究グループが腎臓のオルガノイドをつくっています。腎臓に袋がたくさんできて腎不全になる病気があるんですが、その患者さんのiPS細胞から立体構造の腎オルガノイドをつくると、同じように袋ができるんですよ。 同じものがたくさんつくれますから、異なる薬を一つ一つ試して、袋ができない薬がないかを探すわけです。すでに候補を見つけて、臨床試験が始まりました。 谷川 ずいぶん速く進んでいるんですね。 山中 予想を超えるスピードです。本当の人間の臓器をブタの体内でつくるという研究が進んでいます。遺伝子操作によって膵臓や腎臓ができないブタができるんです。 膵臓や腎臓の形成に必要な遺伝子を壊したブタの受精卵の中にヒトのiPS細胞を入れると、補うようにしてヒトの膵臓や腎臓ができる。ブタの臓器の機能や大きさ、形はヒトと似ているんですよ。 これはまだ研究段階ですが、マウスという小さいネズミと、ラットという大きなネズミの間だと、マウスの中でラットの膵臓や腎臓をつくったりということはもうできています。
ただし倫理的な問題も
谷川 それを使って臓器移植ができるのでしょうか。 山中 そうですね。将来的には慢性的に臓器提供者が不足している臓器移植に新たな道が開かれることが期待されています。たとえば、腎不全で人工透析が必要な患者さん。毎日もしくは週に3回、数時間の透析を行うのは負担ですよね。 iPS細胞ができて、わずか20年も経たないうちに技術は急速に進歩しています。これからの20年は、すごいことになっているんじゃないかと思います。 もちろん一方で、どこまでやっていいのかという議論はあります。 臓器をつくるこの研究は、もともと東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センターのセンター長だった中内啓光先生が中心となって進めていましたが、日本では倫理的な規制で研究がなかなか進められなかったので、2013年にアメリカに渡り、スタンフォード大学を拠点に研究されています。 サイラの中にも、そうした生命倫理を研究する部門があり、研究を進めながら社会にどこまで受け入れられるのかという議論を並行して進めています。 『実用化の「死の谷」...最先端の治療法の事業化に立ちはだかる「巨大すぎる」障壁』へ続く
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/谷川 浩司(棋士)