【パリ=田島大之】3年前の悪夢を振り切るように、高く、美しく舞った。2日に行われたパリ五輪・トランポリン女子の決勝。森ひかる選手（25）=TOKIOインカラミ/金沢学院大クラブ=は6位で2度目の夢舞台を終えた。予選落ちした東京大会の後、引退も考えたが、失意の底から復活。メダルには届かなかったものの、「やりきれてよかった。うれしさと悔しさがあるけど、五輪っていいなと思った」と、とびきりの笑顔を浮かべた。 【写真】予選2本目の演技の得点を見て笑顔の森選手 　約2万人収容の会場は熱気に満ちていた。無観客の東京大会にはなかった歓声と拍手。決勝の演技を終えた森選手は、声援をかみしめるように手を振った。 　予選前は「頭が真っ白になるくらい緊張した」が、1回目の演技を無事に終え、54・890点をマーク。2回目は55・150点と得点をさらに伸ばし、上位8人の決勝にコマを進めた。 　決勝は「守ることはしない」と攻めの演技で臨んだ。予選ほどの得点は出なかったものの、最後は納得したようにうなずき、苦楽を共にしてきた丸山章子コーチ（日本体操協会女子強化本部長、金沢学院大スポーツ科学部教授）と抱き合った。 　決勝の跳躍について森選手は「100点ではあったけど、120点ではなかった」と振り返ったが、丸山コーチは「力は十分出したと思う。コントロールしながらできていた。東京五輪から成長した」とたたえた。 　東京五輪では重圧に屈した。予選2回目の演技を中断し、まさかの敗退。会場で嗚咽（おえつ）を漏らした。その後、一時競技を離れたが、今大会金メダルのブライオニー・ページ選手（英国）を頼り、同国で武者修行を積んだ。 　その中で「結果より競技を楽しもう」との気持ちになり、あらためて五輪への思いを強くした。世界と戦える力を身につけるため、23年に金沢学院大クラブへの復帰を決め、丸山コーチのもとで技を磨いた。 　「二度と出たくない」とさえ思った五輪の舞台に再び戻った森選手は「大会を楽しめた」と満足そうに語り、大粒の涙をこぼした。悔しさに泣いた3年前とは違う、充実感が漂う涙だった。 　　●「1人じゃない」 　能登半島地震の被災地を勇気づけたいとの思いも持って臨んだ五輪。今も苦しむ被災者をかつての自分に重ね、「1人じゃない。自分やみんなを信じていけば光が見えてくる。小さな幸せを喜び、進んでいってほしい」とエールを送った。