静岡と言えば「コーヒー」記憶に残る一杯の豆は「エルドラド」
静岡と言えば「お茶」と思う方が多いはずですが、私にとってはコーヒーです。 10年前、初めて自分のカフェをオープンさせることになったときのことです。真っ先に訪ねたのは、静岡でコーヒー豆の焙煎・卸し・販売をする、イフニコーヒー(2001年創業)の松葉正和さん(50歳)です。 コーヒーは素材(豆)以上の味を出すことは難しいと言われていますが、松葉さんは焙煎技術によってそのハードルを乗り越えることができるのです。知る人ぞ知る松葉さんですが、黒子に徹しています。 「あの人に出会ったときに、そういえばコーヒーを飲んだなと、記憶の片隅に残るような仕事がしたいですね」 そう、松葉さんにとってコーヒーは脇役であって主役は人なのです。 「どんな味が好きかは、個人が決めることです。スペシャリティ(品質流通管理が徹底されたコーヒー豆)だから大事に飲むということではなく、人それぞれに好みや楽しみがあっていいんです。今でこそ、味を楽しむにはブラックで飲むのが当たり前ですが、豆の品質が良くなかった頃は、乳汁やハーブなどでアレンジすることが普通でした」 コーヒーの楽しみ方は自由なのです。私にとってコーヒーとは、1日の始まりだったり、リラックスするときだったり、気分を切り替えたりする時の「スイッチ」になっています。 焙煎技術がすごいと言いましたが、松葉さんの真骨頂は「調達」にあります。松葉さんは、19歳の時にエジプトでコーヒーに目覚めました。そこから探究心は止まらず、焙煎所やコーヒーショップ、農園などに滞在しながらブラジルやEU(欧州連合)、インドネシア、タイなどを渡り歩いたそうです。
そうした経験やつながりによって松葉さんは「エルドラド(黄金郷)」にたどり着きます。 2018年にパプアニューギニアを訪れた時のことです。 「国有林の奥深くで80年前に部族がコーヒー栽培をしていたらしい」と聞いて、山賊対策として軍人に護衛してもらいながら山奥に分け入ったそうです。 「片道8時間かけて到着すると、コーヒーの木のジャングルが本当にあったんです。調べると品種交配される前のアラビカ原種(ティピカ亜種、ブルーマウンテン同種)でした。通常、オーガニック栽培は土壌改良に何十年もかかるのですが、ここは農薬の無かった80年前から自生できる環境が自然で成り立っているため、正真正銘のオーガニックでした」