一つの島を自衛隊基地にする国家プロジェクト・馬毛島着工で変わった暮らしや産業 住民が肌で感じた2年の月日、古里にもたらされた功罪
鹿児島県西之表市馬毛島で、米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴う自衛隊基地整備が始まって2年がたった。地元では賛否の論争から、古くから続く暮らしや産業をどう守るかに焦点が移りつつある。26日告示の市長選、市議選を前に、基地工事がもたらした功罪を追った。(連載・馬毛島の現在地 基地着工2年①から) 【写真】造成工事で茶色い土壌が広がる島の北部=10日、西之表市の馬毛島上空
◇ 2025年を迎え、民間機から眼下に見る馬毛島はこの2年で一変した。大半を覆っていた緑の樹林帯は海岸沿いのごく一部に。仮設宿舎や燃料タンクといった構造物が1年前に比べて増え、網の目のように作業道路が広がっていた。 島全体がさながら「工業地帯」と化す一方、むき出しの茶色い土壌が広がったままだ。23年1月12日の着工に伴い公表された環境影響評価書(アセスメント)では、既に滑走路が完成しているはずだった。 一つの島を自衛隊基地にする国家プロジェクト。厳しい気象条件や人手不足、想定以上の粘土層を理由に、工事は現時点で3年延長の30年3月末までとされる。島から沖合に延びる仮設桟橋は、昨年12月上旬に最後の3本目が完成。これから内陸部での工事が加速する可能性がある。 防衛省などによると、年度内に予定された航空自衛隊馬毛島先遣隊(仮称)約90人の中種子町への配備も4月以降にずれ込む。 ■ □ ■
東に約10キロ離れた種子島では昨年、ある現象がたびたび目撃された。馬毛島を包み隠すほどの土煙。表土が強風にあおられたとみられる。「まるで竜巻。夏はすごかったど」。西之表市住吉に長く暮らす70代の漁師は初めて見る光景に驚いたという。 同時に不安も湧き起こった。巻き上がった土煙の下は、特産の貝トコブシ(ナガラメ)の漁場があるからだ。基地工事が始まる前には沿岸部に稚貝も放流されている。「工事が終わった後の海が怖い」と漏らす。 こうした懸念はトコブシ漁師を中心に出ている。種子島漁協の関係者によると、昨年11月には防衛省と合同で稚貝放流地点の潜水調査を実施した。ただ、結果は公表されていない。工事に伴い、島周辺は船の往来も制限され、文字通りベールに包まれたままだ。 ■ □ ■ 南国の日差しに映えるマリンブルーの海-。そんな種子島の象徴にも“異変”が起きている。陸から見下ろす「透明度」は変わらないが、海中を水平方向に見る「透視度」はこの2年で下がったといわれる。海水温が落ち着き、例年ならば海中が澄むとされる10~11月も、白いほこりのような浮遊物が漂い続ける。
「実は馬毛島から種子島に流れる潮がある」と話すのは、工事関係者の送迎も担う60代の漁師。両島の間に広がる種子島海峡は黒潮の支流が入り乱れ、気象条件で潮流が変わる。大潮の干潮に向かう時間帯や、南西の風が吹き始める梅雨時期終盤は、特に馬毛島からの潮流が顕著だとされる。 基地工事との因果関係は証明されていないものの、とりわけ種子島東岸のある海域では海中の濁りが集中し、魚群探知機に反応するようになったという。「(工事の)影響は絶対あるよ。海はつながってるから」。古里の海を知り尽くす漁師の言葉は重い。
南日本新聞 | 鹿児島