King Gnu、Vaundy、YOASOBI…ストリーミング時代のアルバムのあり方 作品としての完成度を検証
バランス感覚の優れたVaundy、共通した世界観を打ち出すKing Gnu
続けて、Vaundy『replica』。前作『strobo』(2020年)から約3年半ぶりとなるフルアルバムであり、既発シングル曲を数多く含む全35曲を2枚組にまとめた本作では、Disc1とDisc2で大きく雰囲気が異なっている。Disc1には、アルバム先行シングル以外のシングル曲は収録されておらず、アルバム書き下ろしの新曲を中心に、Adoへの提供曲をセルフカバーした「逆光 - replica -」や、前作『strobo』収録曲をリアレンジした「怪獣の花唄 - replica -」のような耳新しい既発曲も収録されている。インストゥルメンタル曲で曲間をブリッジしたり、CDのみにボーナストラックを収録するなど、アルバムというフォーマットがフルに生かされているDisc1に対して、Disc2には、『strobo』後に発表した配信シングル曲19曲がリリース順に収録されており(トータルの収録曲数はインスト曲「Audio 003」を含む20曲)、ベストアルバムのような構成だ。ここから見えてくるのは、Vaundyの素晴らしいバランス感覚である。アーティストとして自らがアルバムのフォーマットで表現したいビジョンをしっかり実現しながら、ファンやリスナーへの気配りも忘れない。このバランスを2枚組という枠組みのなかで両立させたVaundyの功績は大きい。このようにアルバムのあり方について折衷案的な回答を示してくれたのがVaundy『replica』である。 最後はKing Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』。前作『CEREMONY』(2020年)から約3年10カ月ぶりとなる4枚目のフルアルバムだ。このアルバムには、シングル曲11曲、インタールード7曲、新曲3曲の全21曲が収録されている。これだけを見るとシングル曲が占める比率の高さに目を取られるが、実際アルバム全編を通して聴くその印象は一変する。楽曲のタイトルを見てわかるように最初の楽曲「MIRROR」と最後の楽曲「ЯOЯЯIM」が対応しており、全編を通して共通した世界観を打ち出しているこのアルバム。7曲も収録されているインタールードがシングル曲を有機的に繋ぎ、ひとつの物語を紡いでいるのだ。全21曲で以って「THE GREATEST UNKNOWN」というひとつの楽曲を形成しているようにさえ錯覚してしまう、まさに本寸法のコンセプトアルバムである。シングル曲のリリースが先行し、のちにアルバムとしてまとめたのではなく、むしろアルバム制作のなかで完成した楽曲をシングルとして小出しにしてきたのではないかと想像してしまうほど。全21曲、59分50秒を聴き終わったあとの感触は、長編映画を観終わったときのそれだ。このようにKing Gnuは、アルバムというフォーマットに真正面から向き合い、ストリーミングサービス時代の音楽リスナーを驚かせてくれた。 共通のコンセプトに基づいて制作されたシングル曲でアルバム的な統一感を演出したYOASOBI、2枚組作品という枠組みのなかでアルバムの新しいあり方を見せてくれたVaundy、1枚のアルバムを思う存分自分色に染め上げたKing Gnu。彼らのアルバムは、単なるシングル曲の寄せ集めではなく、ひとつの作品としての完成度や意味を持っており、ストリーミングサービスが音楽の聴き方を変えたとしても、アルバムという形式はまだまだ大きな役割を担っていきそうだ。
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