生後2カ月間の写真がない…ダウン症のモデルがパリコレのランウエーに ゆっくり、堂々と2往復、感涙の母「今は誇りに思う」
資金的な余裕はなく、由美さんは昨年から仕事を増やすことにした。体力的に限界を感じた由美さんは、菜桜さんにモデルを辞めないかと切り出した。だが、菜桜さんは「やる」と譲らなかったという。 ▽衣装は「ど派手」に 菜桜さんに大きなチャンスが舞い込んだのは2024年1月のことだ。以前から交流のあった団体「Music for(ミュージック フォー) SDGs」の代表、大久保亮さん(60)を通じてショーに出られるとの連絡があった。音楽を通じた持続可能な開発目標(SDGs)を推進している大久保さんの知人で、パリコレでショーを主催するデザイナーのサミーナ・ムガールさんがゲスト出演を快諾してくれたという。 出演の知らせを受けた菜桜さんは「やったー」と跳びはねて喜んだ。大久保さんは「障害のある子のパワーを世界に知らせたかった」と話す。 衣装でも強力な助っ人が登場した。日本文化を発信したいと、北九州市の貸衣装店「みやび」の店主の池田雅さん(52)に制作を依頼した。池田さんは和装デザイナーでもあり、北九州市の成人式で話題となる「ど派手」な衣装を手がけていることで知られる。
池田さんは菜桜さんの印象から「フランス人形とおひなさまの融合」をイメージした衣装を考えた。さらに「ど派手でなければ私がやる意味がない」と赤の反物と金の帯を使い、襟元は針金を入れて動きを出した豪華絢爛なドレスに仕立てた。 菜桜さんらがパリに渡航する費用は自費のため、資金調達にはクラウドファンディングを活用した。当初は120万円を目指して始めたが、開始後数日で目標を達成。最終的には300人以上から200万円以上が集まった。由美さんは「たくさんの人の支えがあって実現できた」と話す。 ▽満面の笑み「次はアメリカで出たい」 迎えた当日。会場となった高級ホテルにはきらびやかな装飾が施され、大勢の観客がランウエーを見守っていた。いつもと違う緊張感に、菜桜さんは舞台裏で緊張を隠しきれなかった。けれど由美さんが手を握ると、いつもの笑顔に戻った。由美さんが「ランウエー、楽しんできて」と背中を押すと、菜桜さんはこくんとうなずき、ステージに向かった。 ランウエーを歩いた3分間は長かったが、いつも前かがみになってしまっていた姿勢も崩さずやり遂げた。ランウエーの端で見守った由美さんは「今までで一番良かった」と喜んだ。
ショーを終えた菜桜さんは「楽しかった!次はアメリカで出たい」と満面の笑みを浮かべた。由美さんは次なる夢を追いかける菜桜さんの隣を歩き続けるつもりだ。