仲野太賀が今度は“夜のお茶の間”へ 『虎に翼』から『新宿野戦病院』へ演技のグラデーション
朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)にて“朝のお茶の間”で支持を集めた仲野太賀が、私たちを余韻に浸らせたまま、今度は“夜のお茶の間”をにぎわせることになる。そう、小池栄子とダブル主演を務めるドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)がはじまるのである。 【写真】白衣姿の仲野太賀 『虎に翼』での彼には何度も泣かされ、救われたものだが、クドカンこと宮藤官九郎が脚本を手がける『新宿野戦病院』での仲野は、誰かを救うことはあるのだろうか。 本作の物語の舞台は、新宿・歌舞伎町にある病院。実際に歌舞伎町を訪れたことのある方ならば実感を持って知っているだろうが、ここは東京のほかのどの街よりも、さまざまなバックグラウンドを持つ者たちが数多くやってくる土地だ。ここではじつに多様な人々が行き交い、「アッ」と驚くような人間模様が展開したりもする。あまり馴染みがなくとも、ニュースやSNSで一度くらいは目にしたことがあるだろう。 そんな歌舞伎町に佇む「聖まごころ病院」にある日、軍医経験を持つ女医のヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)が降臨することに。救急外来を訪れる特殊な事情を抱えた患者たちを迎え入れ、やがて彼女は歌舞伎町の暗い部分を明るく照らし出す存在になっていくらしい。そんなヨウコと美容皮膚科医の高峰享(仲野太賀)が出会うことによって、物語は大きく動き出していくのだという。本作がテーマに掲げているのは、“さまざまな者たちが交錯する社会の構図”を描き出し、“命の尊さ”を投げかけること。それらがクドカン流のユーモラスな筆致で綴られるわけだ。 物語の舞台が病院なのだから、本作でも仲野は享という役を通して人々を救うのだーーと思ったが、どうやらこれは早合点のようである。
『新宿野戦病院』で仲野太賀が演じる享は「典型的な気取り屋タイプ」?
番組公式サイトの人物相関図には、“父譲りの金もうけ主義者”や“チャラくいけすかない典型的な気取り屋タイプ”などと記されている。さらには、“趣味は港区女子とのギャラ飲みで、お金を使って派手ににぎやかな世界に生きている”とも……。別にどれも悪いことだとは思わないが(そもそもまだ享は私たちの前に姿を現していない)、『虎に翼』のあの心優しい佐田優三の影はなさそうである。 しかし言うまでもないが、これこそが俳優の仕事。何らかの作品で演じ好評を博したキャラクターを私たち観客/視聴者の脳内から完全に消し去ってみせてこそ、演技者としての真の力量が感じられるというもの。むしろどれくらい異なるキャラクターを立ち上げてくるのかに期待だろう。仲野が出演したクドカン作品としては『季節のない街』(ディズニープラス)での好演も記憶に新しいが、あのタツヤという好青年とも享はまったく違うタイプの人間のようなのだから。 2024年に公開された仲野の出演映画でいうと、『熱のあとに』で演じた小泉健太はどこまでも真っ直ぐな人間で、『四月になれば彼女は』で演じたタスクはやや掴みどころのないキャラクターだった。演じているのはすべて仲野太賀というひとりの俳優なのだから、各キャラクター同士に重なりを感じる瞬間があってもおかしくはない。けれども彼が演じるキャラクターたちには、非常に大きな振れ幅があり、その間にはあまりにも豊かなグラデーションがある。どことなく似た印象を受けるキャラクターがいたとしても、仲野の演技には“焼き増し”のようなものがまったく感じられない。その理由としては演技のグラデーションの豊かさが関係しているのだと思う。 高峰享とは、仲野の演じてきた数多くのキャラクターたちの中で、どのようなタイプに分類される存在なのだろうか。前述した特徴からするとあまり好印象は持てないが、しかし彼はヨウコとの出会いによって、その生き方まで変化していくらしい。ということはつまり、『新宿野戦病院』の中でも仲野は演技のグラデーションで魅せてくれるのだろうといえるわけだ。その変化は繊細なものなのか、はたまたアクロバティックなものなのか。“仲野太賀=高峰享”の登場が待ち遠しい。
折田侑駿