給食センターで高齢者向け宅配弁当も 岩手県遠野市 先を見据え〝二つの機能〟
「いい匂いでおなかがすくでしょう?」。4月10日午前、北上山地の山々に囲まれた岩手県遠野市の総合食育センター。ボランティア団体「ほのぼの会」の村木久仁子さん(79)ら5人が、大型オーブンで焼いた鶏肉を弁当箱に詰め、仕上げにおたまでケチャップソースをかけた。 センターは2013年に完成。鉄骨2階建てで、学校給食の調理室と高齢者のための宅配弁当30~40食を作る調理室がある。学校給食以外の食事も作る給食センターは全国でも珍しい。 センターに二つの機能を持たせた理由は少子高齢化だ。市は30年にも15歳未満が人口の10%を割り込み、65歳以上が43%を超えると推計している。将来を見据え「学校給食だけでなく、高齢者への配食サービスにも対応できる施設が必要だった」(市教育委員会)。
大型オーブンで大量調理
配食サービスは市が30年前に始めたが、センターができるまでは公共施設の厨房を借りて調理。以前はフライパンや魚焼き器で少しずつ焼くしかなかった鶏肉も、今は大型オーブンで大量調理できるようになった。 ほのぼの会は市社会福祉協議会の委託を受け、配食サービスの開始当初から調理と宅配を担う。届けた弁当の数は30年間で13万食を超えた。 週3回の配食は高齢者の見守りも兼ねている。同会会長の荻野訓さん(80)はこの日、出来上がった弁当とみそ汁32食のうち、4食分を車の荷台に積み込み、40分で配達。途中、半年ぶりに弁当を頼んだ90代女性の自宅を訪れると「少し会わないうちに一気に体力が落ちたようだ」と女性の体調を案じていた。 一方、配食サービスを支える荻野さんらも高齢者。会員75人のほのぼの会のメンバーも年々減少傾向にある。それでも長年携わる村木さんと荻野さんは「楽しいから続けられている」と口をそろえる。荻野さんは言った。「雨の日、吹雪の日、『ご苦労さま』って言ってもらえると元気が出るね」
日本農業新聞