時代はTKGから「TKM」に…麺そのものの味を堪能! ラーメンの新トレンド「卵かけ麺」3傑紹介
ジャンクな釜玉風! ボリューミー麺をワシワシ喰らう/中華そば 千乃鶏(池尻大橋)
ガッツリ系の名店「千里眼」(東北沢)のセカンドブランドとして’22年にオープンした「中華そば 千乃鶏」。鶏の旨みにあふれたスープと極太手もみ麺のマッチングで評価が高い。こちらで発見したのが、夜限定のメニュー「釜玉油そば」。 温盛りの麺がゆったりと横たわる中から、ひょっこりと卵黄が顔をのぞかせている。こちらも麺と卵、タレで食べさせるTKMか――と思いきや、箸を入れてザクザクかき混ぜると、底に潜んでいた伏兵が姿を現した! 麺と卵黄のみの素朴なルックスから一転して、ジャンクな雰囲気が漂う油そばに変貌! ワシワシかき混ぜていくと、卵黄とタレと油が「千乃鶏」自慢の極太ウェーブ麺によくからむ。 タレは3種の醤油と上質な鶏油を合わせており、まろやかにして濃厚。芳醇な香りもふわっと立ちのぼってくる。チャーシューやメンマ、ザク切りの玉ネギは具材として脇を固める存在だが、ボリューム麺をすすっていく中、食感のアクセントとしても機能する。各種具材を楽しむ中、最後まで飽きずにフィニッシュできた。 店内を見渡せば、ビールを頼んで「釜玉油そば」をアテにする男性客の姿も……TKGは朝に似合う料理だが、TKMは酒の友としても頼もしい存在になりそうだ。ちなみに、このメニューは「揚げニンニク」と「ガリマヨ(ガーリックマヨネーズ)」を別皿で頼むこともできる(無料)。よりジャンクな方向にシフトしたかったら、ぜひ頼んでみてほしい。
エアリーな卵バブルが麺をコーティング! 味変も楽しい/つけ麺専門店 三田製麺所
’08年に東京都・三田に初号店をオープンした「つけ麺専門店 三田製麺所」。濃厚なつけ汁とたおやかな太麺のトータルバランスで愛され、今や全国41店舗にネットワークを拡大している。この強豪つけ麺チェーンが満を持してTKMをメニュー化! ’23年11月のリリースから1週間で卵1万個が消費されたとか。 さっそく渋谷道玄坂店に駆けつけ、「たまごかけ麺」をオーダーした。ふんわりと盛りつけられた麺の上には卵黄が2つ! 何と、こちらはダブルエッグ仕様のTKMだ。高級ブランド卵を採用しているとのことで、オレンジの色味が目に鮮やかだ。映える見た目に期待が高まっていく。 ぷるんとたたずむ卵黄に思い切って箸を入れ、ぐわしぐわしとかき混ぜる。三田製麺所が推奨するかき混ぜ方は「泡立てるように」「目安は30回」。確かに、泡だて器感覚で混ぜていくと、卵黄+麺がふんわりと一体化。麺の全身がオレンジに染まった。気泡と良質なぬめりを帯びた麺をさっそくすする! 麺は「三田製麺所」自慢の平打ち麺。フェットチーネのようにツルツル、シコシコと口中を滑っていく、実に快楽的な仕上がりだ。ホイップされた卵黄をまとうことで、舌触り、喉越しがさらにアップ。箸で運ぶ先から、あっという間に口中を駆け抜けていく。 鯛・鰹節・昆布・椎茸から出汁を抽出したという専用特製ダレと卵はこの官能麺と悪魔的に合う! まったり濃厚な舌触りと旨みの多重奏を満喫したい。 トリュフ風オイルと牡蠣だし醤油、バラのりで味変を楽しみつくしたら、フィニッシュには小ライスで追い飯を。トリュフの香りとバラのりが加わった卵タレを余す所なく味わいたい。コース的に楽しむことができ、最後はTKGとして締める。味わいはもちろんのこと、食べる最中のエンターテインメント性、食後の満足感まで緻密に考え抜かれた逸品。圧倒的な支持を集めるのも納得だ。 冷水で締めた麺の持ち味を前面に出した「ゴールデンタイガー」の元祖TKMから、パワフルに設計した「千乃鶏」の釜玉油そば、そしてジェットコースターのような味変で魅せる「三田製麺所」のたまごかけ麺。三店三様の「卵かけ麺」を紹介したが、いずれも卵のコクと潤滑パワーをフル活用しつつ、麺のウマさ、喉越しをダイレクトに味わえる。 今、ラーメン界では職人が追求する自家製麺だけではなく、イノベーションが進む製麺所の麺も不断の進化を続け、今や「麺」の完成度が加速度的に高まっている。そばでは「せいろ」が、うどんでは「釜揚げうどん」が、麺そのものの味を堪能できるスタイルとして知られている。 麺のクオリティが向上したことで、ラーメンでもつけ麺、油そばのようにスープレスで楽しむスタイルが広がってきた。TKMはさらにミニマムに、麺+タレ+卵のみで食べさせる様式を完成させつつある。トレンドを超えて迫る卵と麺の名タッグを、ぜひ体感していただきたい。 取材・文・写真:佐々木正孝 キッズファクトリー代表。『石神秀幸ラーメンSELECTION』(双葉社)、『業界最高権威 TRY認定 ラーメン大賞』(講談社)、『ラーメン最強うんちく 石神秀幸』(晋遊舎)、『ソラノイロ 宮﨑千尋のラーメン理論』(柴田書店)などのラーメン本を編集。ラーメンを愛し、「ラーメンの探求マインドは変態であれ、振る舞いは紳士であれ」がモットー。
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