エヌビディアの新たな成長要因は「ソブリンAI」
シングテルは現在、インドネシアとタイでもデータセンターを建設している。シングテルの取り組みは、シンガポールの国家AI戦略「NAIS 2.0」を支援するものだ。同戦略では、国のコンピューティングインフラや、機械学習(マシンラーニング)専門家の人材プールを大幅に拡大することを目指している。 ■ カナダ、日本、欧州も積極投資 カナダは24年5月、国内のスタートアップや研究者向けの国家コンピューティング戦略の一環として15億米ドル(約2400億円)を拠出することを明らかにした。WSJによると、日本政府はファン氏の来日を受け、24年に国内のAIコンピューティング能力の構築に約7億4000万ドル(約1200億円)を投じると明らかにした。 同様の動きは欧州全域に広がりつつある。フランスやイタリアでは通信会社がエヌビディアの半導体を搭載したAIスーパーコンピュータを構築し、現地の言語で訓練されたLLMを開発している。 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は24年5月、AI訓練用の中核半導体であるGPU(画像処理半導体)の購入量を増やすため、官民パートナーシップを構築するよう呼びかけた。30年または35年までに、GPUの世界稼働数に占める欧州のシェアを現在の3%から20%に引き上げたい考えだ。 ■ 「ソブリン・クラウド」に不可欠なNVIDIA製品 米マイクロソフトは24年4月、UAEに拠点を置くAI企業、G42に15億ドル(約2400億円)の戦略的投資を行うと発表した(発表資料)。 これに伴い、G42は自社のAIアプリケーションとサービスをマイクロソフトのクラウドサービス「Azure」上で実行し、世界各国の公共セクターや大企業に高度なAIソリューションを提供する。両社は協力して中東や中央アジア、アフリカ諸国に高度なAI技術とデジタルインフラを提供する。 世界各国でソブリンAIを導入・推進する動きが広がっている。その基盤となるのが、マイクロソフトなどのクラウド企業が支援、あるいは協力する「ソブリン・クラウド(国家独自のクラウド)」の構築だ。 そして、それを支えるのがエヌビディアの半導体製品となる。アナリストらによると、エヌビディアでは今後、中心的な顧客であるテクノロジー企業から受注が減少する恐れもある。同社の売上高の伸びは鈍化傾向にある。しかし、世界各国のソブリンAIへの動きは、エヌビディアにとって良い埋め合わせ材料になるかもしれない。同社の収益は引き続き増加するとアナリストらはみている。
小久保 重信