【アメフト】退学、引きこもり、惣菜売り場店員を経てNFL選手に 夢を掴んだ24歳ルーキーが悲劇の事故死
米プロフットボールNFLのミネソタ・バイキングスが今春のドラフトで指名したカイリー・ジャクソン選手と、ジャクソンの高校時代の友人だった元大学フットボール選手2人の計3人が、現地7月6日未明、メリーランド州で起きた交通事故で死亡した。NFL公式サイトや、スポーツ専門局ESPN、さらに多くのメディアが速報した。 【どんな選手だったのか】今年4月に刊行した「NFLドラフト候補名鑑」内のジャクソン選手の評価。評者はNFL解説の村田斉潔さん メリーランド州警察によると、ジャクソン選手は6日午前3時14分に起きた3台の車の衝突事故で死亡。高校時代のチームメイトだった2人の元選手、アイザイア・ヘイゼルさんとアンソニー・リットン・ジュニアさんも死亡したという。警察の調べによると、ジャクソン選手は助手席に乗っていたという。
ジュニアカレッジを転々、2シーズン競技から離れ
ジャクソン選手は1999年8月生まれの24歳だった。ポジションはCB(コーナーバック)で、今年のドラフト4巡108位でバイキングスに指名された。指名順位は高いとは言えなかったが、今ドラフトのCBの中では傑出した長身(193センチ)で、運動能力も高く(40ヤード4秒50、垂直跳び93センチ、立ち幅跳び338センチ)、チームからは期待されていた。 NFL最高のCBニューヨーク・ジェッツのソース・ガードナーを見ればわかるように、長身・アスレチック・カバー能力が高いというジャクソン選手の資質は、トッププレーヤーになる可能性を秘めていた。 とはいえ、ジャクソン選手は苦労人だった。2017年に高校卒業、強豪カレッジに進むことに失敗した。その後に進学したジュニアカレッジ(JC)でも上手く行かず、3校を転々とした。 最初のJCを直ぐに辞めた後は、半年間、家に引きこもったという。そして、友人たちには「学生だ」と嘘をついていた。そのことが自分を蝕んだと、ジャクソン選手は、バイキングスに入団後、報道陣に語っている。 その後に、バスケットボールのNBA2Kリーグでプレーするチャンスを探したり、ローカルスーパーマーケット「ハリス・ティーター」の惣菜コーナーで働いて、月間最優秀従業員賞を受賞したこともあったという。 約2シーズン、フットボールから離れた日々の後、2021年に、全米トップ級の強豪、アラバマ大に編入した。しかしそこでもNFLへ進むエリート選手たちとの競争に勝てず、なかなか出場機会が得られなかった。 2023年にオレゴン大に転校後、ようやく、恵まれた才能が開花した。オールPAC12ファーストチームに選出され、ついにはドラフト指名されて、夢だったNFL選手となったばかりだった。 ジャクソンはバイキングスと契約したのち次のように語っていた。 「自分の歩んできた道を、後悔はしていない。忍耐することをたくさん教わった気がする。そのおかげで今の自分がある。近道はしない。すべてをありのままに受け止め、あまり多くのことを疑わない」。 「そのメンタリティは、底辺にいたときに、何も持っていないことがどういうことなのか、そしてトップレベルのプログラムに進学してすべてを手に入れることがどういうことなのかを見たときに、生まれたような気がする」。 ◇ バイキングスのケビン・オコネルHCは次のように声明した。 「この報せには本当に胸が張り裂けそうだ」。 「カイリーは私たちのチームに伝染するようなエネルギーをもたらしてくれた。彼の自信と魅力的な性格は、すぐにチームメイトを惹きつけた。一緒に過ごした短い時間の中で、カイリーがとてつもないプロのフットボール選手に成長することは明らかだとわかった。それ以上に印象的だったのは、家族や周囲の人々のために最高の人間になりたいという彼の願いだった。言葉を失っています。カイリーの家族、友人、チームメイト、コーチに心からお見舞い申し上げます」。
アメリカンフットボール・マガジン編集部