人工知能(12月22日)
生成AI(人工知能)と呼ばれる技術が急速に普及しつつある。自然な日本語の質問に対して答えてくれる。インターネット上の無料サービスも提供されており、デスクワークを中心とした仕事のやり方を大きく効率化すると期待される。一方で偽情報の拡散、知的財産の侵害などに使われることが危惧されている。画期的であるがゆえに本格的な普及をにらんだ世界共通のルール作りは非常に重要だ。 高度なAIは50年以上前の映画「2001年宇宙の旅」に登場する。人間と会話ができ、似顔絵を見て人物を言い当てる。だが宇宙船を制御するこのAIが機能に異常を生じて乗組員を死亡させてしまう。機械の暴走のように思われるが続編「2010年」ではそもそも人間の指示に矛盾があり、任務を忠実に遂行しようとした混乱だったことがわかる。映画では最後に人間を助けるために自己犠牲の道を選ぶ。 AIはそれ自体が単独で使用されるだけでなく機械の「頭脳」としてその能力を発揮するだろう。ロボットや自動運転車が典型である。18世紀第1次産業革命では動力が機械に組み込まれて「筋力」として使われたことと同様だ。織物業の機械化が進み、多くの労働者は職を失った。頭脳となるAIの普及で今後職業環境にどのような変化を生じるかについても様々な角度から議論されている。
生成AIが登場する以前の2010年代前半には、AI開発企業や大学の研究などによればAIの影響を受けにくいとされる職業は判断力や創造性、人との感情を重視した対話などを必要とする傾向があるとされていた。ところが高度な生成AIが登場してからは高い職業知識と技術を持っていてもAIによる自動化の影響を受ける可能性が高いと指摘されている。 今年オリンピックパラリンピックが開催されたフランスで9月に技能オリンピック(技能五輪国際大会)も開催されていた。日本選手は5職種で金メダルを獲得するなど活躍し、金メダルの国別獲得数では5位。今年の日本での報道状況をみると残念ながら関心は高くなかった印象である。技能五輪というと金属加工など製造業のイメージが強いが、他にも造園、洋菓子、ホテル接客、塗装など職種は多岐にわたっている。これらの職業は何気ない人の動作の中に高度な判断や創造性が含まれていて、習得には長い時間と経験を要するという共通点がある。私はこのような職業はAIの影響を受けにくいと思う。生成AIの普及する今だからこそもっと関心を集めても良かったのではないか。
私の好きなアニメ「攻殻機動隊」にもAIロボットが登場する。ボスに任務として待機を命じられたとき「留守番するとおみやげの権利が発生する」とボスに要求する。ボスが「みやげ話をたくさん聞かせてやる」と応じるとAIロボットは素直に喜ぶ。良きパートナーとしてAIと人間が共存共栄できる世界が来ることを願っている。 (中岩勝 産業技術総合研究所 名誉リサーチャー)