【日本人学校バス襲撃事件】死亡した中国人女性を「英雄視」する当局の意向、遺族が拒否したワケ
■ 中国の日本人社会に衝撃 まるでいまの時節の梅雨空のようなモヤモヤした昨今の日中関係だが、先週さらにモヤがかかる事件が起こった。 【写真を見る】日本人母子を刃物で襲ってきた男を身を挺して阻止しようとして刺され亡くなったバス案内係の中国人女性・胡友平さん 中国時間の6月24日午後4時過ぎ(日本時間5時過ぎ)、上海に隣接した江蘇省蘇州市の高新区塔園路新地センターのバス停前で、蘇州に来て間もない52歳の周という男が、刃物を振り回した。周は日本人学校のバスに乗り込もうとする日本人母子に狙いを定め、凶行に及んだ。 その様子を、バスの整理係だった女性・胡友平さん(54歳)が発見。自ら身を挺して防ごうとした。 胡さんの勇断により、日本人母子は刺されたものの、軽傷で済んだ。だが当の胡さんは、男に何度か深く刺された。すぐに救急車で近くの病院に運ばれたが、2日後の26日に息を引き取ったのだった。 まさに大都市の白昼で起こった惨事だった。すぐさま中国と日本で、胡さんに対する哀悼の動きが広がった。
■ 胡友平さんの死を「利用」しようとする当局 私は常々、中国のネットやSNSを見ているが、ここ一週間で胡さんについて、尋常でない数のコメントが寄せられた。 <平凡な英雄の一路平安、天界にはあなたの場所がある> <まさに敬うべき善行! 天界にまた一人、天使が入った> この事件で犠牲になった胡友平さんには、心からの哀悼の意を表したい。その上で、私がいま注視しているのは、中国側の「二つの動き」である。 一つは、胡友平さんの「英雄性」を強調することで、中国人の愛国心を鼓舞しようとするものだ。これは、2019年の年末、中国湖北省武漢市で、初めて新型コロナウイルスに対する警告を発し、その後自らも感染して、2020年2月6日に死去した医師・李文亮氏(享年34)に対して取った措置を髣髴(ほうふつ)させる動きと言える。 当時の湖北省人民政府は、死後2カ月近く経った4月2日に、李文亮氏を「烈士」と称えた。この頃、突然全市をロックダウンされた900万武漢市民、及び14億中国人は、当局に対して憤懣やるかたない気持ちだった。それを当局は、李氏を「愛国烈士」に祀り上げることで、人々の怒りの矛先を、当局からコロナウイルスへと転化させようとしたのだ。