39歳になった山下智久がもっと評価されるべき理由。主演作からわかる“到達した境地”とは
名演を繰り出す無骨なサイボーグ
あるいは、初の出動命令で、雪崩が起きた現場に急行する場面。晴原は、防災担当大臣・園部肇一(舘ひろし)の力を借りながら、市長のところへ乗り込む。市長は礼儀知らずな態度を戒めようとするが、晴原には関係ない。 彼の最大の優先事項は、人命救助だから。「そんなことは甘んじて受け入れてください」と市長を怒鳴る姿もまた永瀬財地が吐く決め台詞に似ている。しかも堂々たる仁王立ちは、『今際の国のアリス シーズン2』(Netflix、2022年)で素っ裸の状態で山﨑賢人扮する主人公に立ちふさがるキューマ役の姿を思い出させる。 『ブルーモーメント』の山下は、過去に演じたキャラクターを総動員することで、それぞれの場面で名演を連打している。無双状態。名演を等間隔で正確無比に繰り出す無骨なサイボーグのようでもある。
数字だけで判断するのはどうなのか?
第1話から名演を数え上げたらきりがないほど。でもどうやらそんな山下の力量と力技があっても本作全体への評価は、思ったほどには高評価でもないのだ。 山下智久というと、テレビドラマの視聴率低迷の時代に、それでも数字がとれる俳優としてのイメージがある。だから今回も救世主的に白羽の矢が立ったのだろうけれど、そういう過度な煽りがそもそもおかしな話ではないか。 だってどれだけ山下が名演を刻もうが、お構いなしに数字だけで判断されることになるのだから。第1話の世帯視聴率は、8.6%。第2話も8%台だったが、3話から下降気味になり、第8話、第9話が、6.6%、最終話(第10話)は6.3%だった。 物語の内容が鈴木亮平の『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS、2021年)と似ているとの批判もある。でもね、我らが山Pの演技の温度が、こんなにほっかほかの数値であることだけで十分だと思うんだけれど……。
スマートな演技一本勝負でテーマそのものに
本作を読み解く鍵は、数字ではないのは明白だと思う。もっと画面上の演技を見てほしい。繰り返しになるが、山下の演技の温度を各場面ごとに敏感に感知できるか、できないか。「日の出前と日の入り後のわずかな間」にしか観測されないブルーモーメントのように、山下智久を感じられるか、感じられないのか。 つまり、山下の演技自体が、本作のテーマそのものだというと。これまで彼が演じてきた過去作の演技の集大成でありながら、ザ・山Pと言えるような要素は極力削ぐことで、ギュッとスマートに集約されている。 人命救助という点では、山下を代表する「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズ(フジテレビ)とテイストは似ているのに、同シリーズや『正直不動産』など、冒頭で必ず上半身をさらけ出していた山P的なものはどこにも見当たらない。第4話で「限界だ」と言って、白衣を脱いで、ネクタイを緩めることはあっても素肌までは見せない。 筋骨隆々な山下が脱ぐのは、もはやサービスショットを超えた署名のようなものなのだが、スマートな演技一本勝負で、新たに署名を書き換えたかのような本作の山下智久が、どこまでも清々しく写る。