孤独死は「かわいそう」? 死に方をジャッジせず、受け止める大切さ 僧侶の伝えたいこと
コントロールできない「死」の恐怖
浅生さん:僕は分からないものに対して「怖い」っていう感覚があまりないので、分からないっていうことだけが分かっているという感じですね。 水野:わたしはやっぱり怖いので、いろんな人に「死」ってどう思ってますかとフランクに話すようにしているんですよね。 たとえば臓器移植の取材を長年やっているんですけど、自分は臓器提供がしたいということを家族に伝えています。最初、母には「縁起でもない」って言われたんですけど、今は分かってくれるようになりましたね。 そうすると、母の理想の最期の迎え方の話もできたりします。だから、根気強くフランクに話していかないとダメなのかなって感じました。 浅生さん:日常で「話す」ってことはすごく重要ですよね。 玉置さん:重要というか、「死」については話すことぐらいしかできないんでしょうね。だって結果的に死んだことがないからね、死んでみるわけにもいかないし、1回こっきりなもんですからね。 緩和ケア病棟にいらっしゃる患者さんで「怖い」っておっしゃる方は、「死ぬ」こと自体が怖いわけじゃないようなんです。 「お迎えに来るのはしょうがない」「死ぬのは仕方ない」と思っているけれども、「それがいつ来るのか分からないのがイヤだ」っておっしゃるんですよね。アンコントロールなんですよ。 私たちって、思い通りにいかないことが最高にイヤなんです。どんなことでも、きつい仕事でも、それが自分のコントロール下にあれば大丈夫なんです。 誰かに「やれ」って言われて、それが理不尽で、自分で全く納得できないことは、とても苦しいんです。 だから、「お迎えが来るときがいつなのか分からない」というコントロール不全っていうのかな……それはとても怖いみたいですね。
死に方をジャッジしないこと
浅生さん:生と死の間にいらっしゃるような、本当に死を意識された人たちと、死を意識する前の人たちとの違いって何かありますか。 玉置さん:昨日お話しした方はね、最初に先生たちに言われた余命から1,2カ月過ぎている方だったんです。先生たちって割とタイトな制限時間を言うのでね、だいたいのびるんですよね。 でも昨日、「もうまもなくです」っておっしゃって。「外は暑いですか」って聞かれるんです。「暑いですよ」ってお答えしたら、「地球が何かおかしくなってるわね。もうここに、私たちは住んではいけないっていう合図かもしれないわね」って。 「私はもうまもなくだから、あちらに行ったら、皆さんがもう少しここを使えるようにお願いしとくわね」って言ってくださったんですよ。 これはもうね、「仏」でしょう。「ほぼ仏」です。そういう風に、非常に静かなお気持ちになっていらっしゃる方もおいでです。 でもそうすると、皆さん「穏やかに死にたいな」と思うでしょう。親や身近な人にも「穏やかに逝ってほしい」と願うんですよ。でも、それは、そのほうが自分がラクだから。誰もが「穏やかに死ななければいけない」というのは、違います。人それぞれ。 ある高僧は、「死ぬのは怖くない」ってずっと言ってたんです。なぜかというと「私には仏がついているからだ」って。その方が、いよいよという時になってお弟子さんを呼んだんですよ。耳を近づけたらね、「死にとうない」って言ったんですって。 浅生さん:これまで言ってたことは何だったの、ということですね(笑)。 玉置さん:でもそれでいいんですよ。死ぬってそんなにきれいなことじゃない。泥臭いもんです。だってこれだけのエネルギーを閉じていくんですから。 自分がどういうスタイルで逝くか、家族や身近な人がどういう死に方をするかは、それは分からないです。 理想通りにはいかなくても、そのまま「そうだったね」って受け止めればいいんです。「穏やかに死んだ人がよくて、死にとうないって言った人がダメ」っていうんじゃないですよ。 私たちは勝手に死に方にジャッジをつけるからね。 「孤独死」に、私たちは「お気の毒に」って言うでしょ。なぜひとりで死んじゃいけないんですか。「誰も構うな、私はひとりで死んでいく」と決めた「孤高死」かもしれませんよ。 その人の80,90年生きてきたものを、ひとりで亡くなったという最期だけで「社会のすき間で死んでしまったかわいそうな人生」ってジャッジしてしまうのは、失礼な話じゃないですか。 死というものはいずれ、100%私たちに訪れるものであって、その「形」はあまり意味がありません。ジャッジをするのは私たちだけ。来たるべき時が来るのを、ただただ、粛々と待てばいいのかな。 ※記事は第3回に続きます 玉置妙憂(たまおき・みょうゆう)さんのプロフィール:看護師・僧侶・スピリチュアルケア師。夫を自宅で看取り、その「自然死」があまりに美しかったことから開眼し出家、高野山真言宗僧侶となる。緩和ケア病棟でスピリチュアルケアにあたりながら、一般社団法人「大慈学苑」代表として活動 浅生鴨(あそう・かも)さんのプロフィール:作家、広告プランナー。ゲーム、レコード、デザイン、広告、演劇、イベント、放送などさまざまな業界・職種を経た後、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手掛ける。 たらればさんプロフィール:だいたいニコニコしている編集者。Xで古典やマンガについてつぶやき、23.2万フォロワー。「SNS医療のカタチTV」をお手伝い。(https://twitter.com/tarareba722) 水野梓プロフィール:withnews編集長。臓器移植の取材をきっかけに、医と生老病死の関係に興味を持つ。連載「医と生老病死」を担当。 <SNS医療のカタチとは:「医者の一言に傷ついた」「インターネットをみても何が本当かわからない」など、医療とインターネットの普及で生まれた、知識や心のギャップを解消しようと集まった有志の医師たちによる取り組み。皮膚科医・大塚篤司/小児科医・堀向健太/外科医・山本健人が中心となり、オンラインイベントや、YouTube配信、サイト(https://snsiryou.com/)などで情報を発信し、交流を試みている>