【自民総裁選告示】実行力見極めねば(9月13日)
自民党総裁選は、27日の投開票に向けた論戦が始まった。過去最多の候補者9人は政治改革、改憲、防衛、経済、雇用対策ほか幅広の独自策を競い、百家争鳴にぎやかだ。新総裁の選任、首相就任を経ての衆院解散・総選挙が取り沙汰されている。公約の実現性と実行力は果たしてあるのか。党員・党友や世論の歓心を買いたいがための政策はないか。各候補者の主張を見極めねばならないだろう。 焦点の政治改革を巡っては驚くばかりだ。使途公開義務のない政策活動費について、複数候補が廃止に言及している。先の通常国会で、野党の追及を一貫してかわし続けた姿は記憶に新しい。領収書の公開を10年後とする対応は実効性が疑われ、国民の批判を浴びながらも、政策活動費を温存させた経緯がある。 一転して廃止をうたうなら、派閥の裏金事件で政治不信が極まる渦中でなぜ、本気で実現へ動かなかったのか。経緯をぜひ聞きたい。 防衛力の抜本強化、異次元の少子化対策の財源確保で、増税中止に転じた候補者は党中枢に身を置く。「ちゃぶ台返しだ」との党内の反発にもさらされている。岩盤保守層の反対が根強いとされる選択的夫婦別姓は、容認論がにわかに目立ち始めた。
国会での熟議に欠ける現政権と党の増税方針、選択的夫婦別姓導入に消極的な姿勢に対し、各種世論調査は厳しい結果を示している。国の安全保障と国民の社会活動に関わる大きな問題だ。公約に据えたのならば、党内の異論を払拭する確約と道筋を明確にする必要がある。 臨時国会での首相就任後は内政だけでなく、ウクライナやパレスチナ問題などで分断された国際社会への対応を迫られる。総裁選は米国、中ロ、北朝鮮をはじめ、存在感を増す新興・途上国への外交力も踏まえた選択が求められる。 脱派閥を体現できるかどうかも問われている。候補者が林立し、党の既定路線を超える公約が相次ぐのは、派閥廃止で発言の自由度が増した結果でもある。舞台裏では、決選投票を見据えた旧派閥、党の重鎮らによる旧来型の主流派争いも語られている。新生自民党をつくる覚悟と胆力はあるのか。看板の掛け替えにとどまるのか。動向も注視していきたい。(五十嵐稔)