おそろしい「住宅崩壊」…大地震で崩れ去る家の「意外すぎる問題点」
2024年1月1日、能登半島地震が発生した。大地震はいつ襲ってくるかわからないから恐ろしいということを多くの人が実感した出来事だった。昨年には南海トラフ「巨大地震注意」が発表され、大災害への危機感が増している。 【写真】日本人が青ざめる…突然命を奪う大災害「最悪すぎるシミュレーション」 もはや誰もが大地震から逃れられない時代、ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。 (※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
地震で倒壊した住宅の「問題点」
日本で初めて震度7を観測した「内陸直下の地震」の阪神・淡路大震災では、地震を直接の原因として死亡した約5500人のうち8割は、倒壊した住宅の下敷きとなった窒息・圧死だった。 「内陸直下の地震」の震源に近いエリアでは、急に地面に対して垂直方向に生じる初期微動(P波)の「縦揺れ」とほぼ同時に、主要動(S波)の「横揺れ」が起きる。もともと建物は横からの力に弱く、建物倒壊を引き起こしやすい。 では、地震で倒壊した住宅はどこに問題があったのか。 木造住宅の耐震化について研究を続けてきた東京大学の坂本功名誉教授は「答えは、壁だ」と指摘し、地震の揺れには「耐力壁」で対抗すべきだという。建物を横から押すように働く水平の力に対して壊れなければ、基本的に地震でも崩れることはないというわけだ。そのためには壁をバランスよく配置し、「箱」のようなものをつくるのが正攻法の考え方とする。 2005年、国は兵庫県三木市に実物の住宅やビルを揺らして倒壊する様子を再現する世界最大の耐震実験施設「E-ディフェンス」を設けた。 坂本名誉教授ら研究者が全国から集められ、縦20×横15メートルの震動台に旧耐震基準仕様の木造住宅2棟を並べ、水平の前後、左右、上下の3次元の揺れを再現した。 1棟は揺れで1階部分が大きく傾き、2階と屋根の重さによって1階を潰して5~7秒で崩壊。2棟のうち工費110万円超で筋交いや壁の増設などの耐震補強を施した別の1棟は倒れなかった。 木造住宅には1950年の建築基準法施行とともに一定量以上の「耐力壁」を設けないといけない「壁量計算」が設定された。 さらに阪神・淡路大震災の被害の状況を受けて、国は2000年に「耐力壁」をバランスよく設置するよう、「四分割法」を定め、柱の種類に合う適切な金物を具体的に示した。 「四分割法」では建物の各階を東西、南北方向の長さに4等分して外壁部分から4分の1の部分を対象とする壁量の計算方法を明確にした。 ただ、2016年の熊本地震でも1981年以降の「新耐震基準」の木造住宅で揺れによって柱が土台から浮き上がって抜け、2階が落下して崩壊するという被害が出ている。坂本名誉教授は「1981年から2000年までの19年間の木造住宅は柱の足元が止まっていないかもしれない。確認が必要」と警告する。 では、首都直下地震はいかなる被害をもたらすのか。 東京都が想定するのは都心南部で午後6時に起きる最悪のケース(M7.3)で、阪神・淡路大震災の2倍にあたる約20万戸が揺れ・液状化・火災で全壊し、6148人が犠牲になるというものだ。全壊する建物の約8割は1980年以前の「旧耐震基準」に基づく古い住宅とみられる。 東京都内に239万1900戸ある木造住宅(2020年時点)のうち、1981年より前に建てられた旧耐震基準の住宅は53万6400戸、1981年以降2000年までに建てられた住宅は88万7800戸、2001年以降は96万7700戸ある。 大地震の襲来で慣れ親しんできた自宅が崩れるのは、誰でも悲しいことだ。だが、命がなければ建て直すことも、移住してやり直すこともできない。たとえ、家を失っても生き抜くことが大切なのだ。 7秒間で自宅から逃げたり、身の安全を確保したりすることが難しいと思えば、最低限の防衛策は自分でとらなければならない。その時に何ができるのかを考えるよりも、「その時まで」に何をすべきかを真剣に考えておく必要がある。 つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
宮地 美陽子(東京都知事政務担当特別秘書)