迷走台風、記録的豪雨…予測不能な災害増加 「自らを守る」防災教育急務
台風の迷走や記録的豪雨など、今年は予測できなかった気象現象が甚大な被害をもたらしている。8月の台風10号は気象庁や米軍機関の上陸予想が紀伊半島東部から九州南部まで毎日変転し、9月の石川・能登豪雨は線状降水帯の半日前予測ができなかった。10月3日に台湾南部に上陸した台風18号も予想進路と異なる逆行と停滞で被害が深刻化した。防災の専門家は「地球温暖化に伴い『自らを守る』防災教育が急務となっている」と指摘する。 日本周辺の8月海面水温は異常な高さだった 「これほど勢力が急速に衰えるとは予想できなかった」。気象庁の観測担当者が4日、台風18号の動きについて本音を漏らした。 18号は、台湾中央気象局、気象庁、米軍台風合同警報センター(JTWS)のいずれも、2日までは台湾縦断を予想。1日に中心気圧が920ヘクトパスカルを下回る、台湾史上最悪級の猛烈な勢力に発達した。日本では沖縄・八重山地方の直撃に厳戒態勢が敷かれ、台湾全土で学校や企業などが縦断中の「台風休暇」を決めた。 しかし、18号はその後停滞し、3日深夜に進路を180度転換。急速に勢力を落として4日には海洋へ抜け、熱帯低気圧に変わった。停滞により高雄市周辺で被害が広がり、土砂崩れなどで2人が死亡、500人前後が重軽傷を負った。 予想が外れた原因として気象庁は「台湾北西部上空の乾燥」を挙げた。担当者は「想定外の乾燥で台風の雲が急速に消えていった。当初は大陸の高気圧から吹く風にあらがって北上すると予想したが、衰えた勢力では進めず、回れ右をする形になった」と解説する。乾燥の原因は不明だ。
スパコン導入も想定以上の雨量
8月下旬の台風10号も、1週間に上陸予想地点が東西500キロにわたって移動。上陸後も予想と実際が異なる「迷走台風」と呼ばれた。気象庁は「太平洋高気圧が予想を超えて西へ張り出し、大陸からの高気圧が想像以上に南下してきた」と指摘。気象環境の変化が予想を難しくしているとの認識を示した。 9月下旬の能登半島豪雨も、気象庁が新型スーパーコンピューターを導入して6月から運用を始めた「線状降水帯の半日前予測」ができなかった。1時間雨量の最多記録を2倍近くも上回る、121ミリの猛烈な雨が降った輪島市では、土砂崩れや洪水が相次ぎ、1月の地震で再建途上のインフラも破壊された。
近海の水温上昇気象大きく変化
日本周辺の気象環境は近年、大きく変化している。気象庁が各国機関と連携してまとめた8月の世界海面水温分布図によると、台湾から日本列島、太平洋中央北部にかけて海面水温が平年比2~5度以上も上回り、他の海域よりも突出していた。 さらに、偏西風が平年より北寄りに蛇行。秋には日本を厳冬にするラニーニャ現象の発生も予想されている。 東京農業大学の本田尚正教授(防災科学)は「気象情報ほど精度の高い防災情報はないが、それでも予測できない災害が起きるようになった。施設などハード主体の防災には限界がある。身を守る知識や情報を普及するソフト面の防災教育を充実させなければならない」と語る。 (栗田慎一)
日本農業新聞