1996年に野茂英雄が指摘した日米の野球の違いと、メジャーを目指す人たちへのメッセージ 「明日の大リーガーたちへ」
ロジャー・クレメンスの風格
最後に、僕が最近気にかけていることというか、興味を持っているテーマについて書きたいと思います。はたしてそれが、これからメジャーを目指す人たちの参考になるかどうかはわかりませんが……。 僕が最近興味を持っていること。それは、ピッチャーが醸しだす「風格」のことです。 かつて、マウンドに立つロジャー・クレメンス(現トロント・ブルージェイズ)の、えも言われぬ「風格」について述べたことがあると思います。彼は、マウンド上で特別なパフォーマンスをするわけでもないのに、いつも堂々としていて、つい見とれてしまうような独特の雰囲気を持ったピッチャー。僕の憧れの選手と言っても過言ではありません。 その彼が、どうしてあそこまでの「風格」をたたえているのか、僕は時々考えるんです。 これはマダックスやランディ・ジョンソン(マリナーズ)にも言えることですが、メジャー・リーグの中でも不思議なオーラを発するピッチャーが何人かいます。 いったい何なんでしょうか、あの周囲を圧倒する「風格」の正体は……。 もちろん、答えがそんな簡単に見つけられるはずはありません。また、僕がクレメンスやマダックスのようになりたいと思っても、どうやったらなれるのか見当もつきません。 ただ僕は、心の中でおぼろげながら、こう思っています。ピッチャーとは本来、そういうものなのではないかと。いや、そうあるべきなのではないかと。 グラウンドの一番高いところに立って、観客の視線と期待を一身に浴び、その中で相手打線に戦いを挑んでいく孤高の存在。打たれれば、ただひとりグラウンドを去っていかなければならない代わりに、抑えた時にはチームメートからの信頼と尊敬と、観客からの賞賛を独り占めできる存在。それがピッチャーというものなんだと思います。 そしてクレメンスやマダックスやジョンソンは、そういったプレッシャーの中で常に素晴らしい仕事をすることでエースと呼ばれ、見るものの期待に応え続けることで主役としての「風格」を備えていったのだと。 モノクロ写真/書籍 『ドジャー・ブルーの風』より 写真/shutterstock ---------- 野茂英雄(のも ひでお) 日本人メジャーリーガーのパイオニア的存在。大阪府大阪市港区出身。26歳の頃に年棒980万円でロサンゼルス・ドジャースと契約。初年度に13勝6敗を記録し、チームの7年振りの地区優勝に貢献。独特の投げ方はトルネード投法と呼ばれ、人気を博し、NOMOフィーバーを巻き起こした。現在もサンディエゴ・パドレスでアドバイザーを務めている。 ----------