苦労人V「自分は自分」開花の瞬間は人それぞれ| JLPGAツアー
25歳の天本ハルカがJLPGAツアーの今季9戦目「パナソニックオープン」(浜野ゴルフクラブ・千葉県)を制した。2021年度に5度目のプロテスト挑戦で合格。自身の優勝で15人目のツアー優勝者を出した”黄金世代”の苦労人だ。 「自分は自分-」。はつらつと語るその口調に乗り越えた葛藤が透けた。アマチュア時代から活躍する選手が多かった黄金世代の一員だが、実績はほとんどない。目立った成績をあげれば、「名前を覚えてもらいたい」と登録名をカタカタのハルカに変更する前の2019年に天本遥香として出場した「全米女子オープン」(結果は予選落ち)くらいだろう。 一方で周囲は輝かしいキャリアを歩んでいる。アマチュアとしてプロツアーを制した勝みなみや畑岡奈紗のみならず、小祝さくらや新垣比菜らも同学年だ。2017年のプロテスト、米ツアーからキャリアを始めた畑岡を除く中心選手はしっかり合格。いきなりツアーで活躍した。 さらに翌2018年。2度目のプロテストで合格した渋野日向子や原英莉花、河本結らがすぐにツアー優勝者の仲間入りを果たす。一方、天本は最終プロテストまでも進出できずに不合格。母子家庭で育った。もちろん焦りはある。ただ、「自分は自分だから」と整理をつけた。 高校時代から伊澤利光に師事して腕を磨いてきた。「ラストチャンス」と覚悟したプロテストを突破すると、潮目が変わったのは、昨季ぐらいだろうか。シーズン後半は安定して予選を突破し、メルセデスランキングは43位で初のシードを獲得。オフを経て今季は一躍、注目選手になった。今季9試合すべてで予選を通過し、今大会の優勝を含めてトップ10入りは7度目。同学年の臼井麗香が優勝して以降、仲間から「つぎはハルカだね」と言われていたそうだが、いつ優勝してもおかしくない状況で結果を出した。 パーオン率は77.1717で全体2位。平均バーディー数も4.0727で2位、サンドセーブ率は68.1818で1位とスタッツでも好調さはうかがえる。生涯スポーツと言われるゴルフにおいて、才能が開花する瞬間は誰にもわからない。宮里藍さんや畑岡や勝、古江といったジュニア時代から圧倒的な成績を残して世界へ飛び立つ選手もいるが、天本のように地道な努力が実を結ぶ瞬間がある。 思えば渋野の開花の瞬間は英国で日本人史上2人目のメジャー制覇を成し遂げたたった4カ月前。熊本で行われたバンテリンレディスで初日「81」を叩き最下位に沈みながら、2日目に「66」でプレーして予選を通過。その後の試合から予選通過を繰り返すと国内ツアーで優勝を重ねて、同年の8月に「全英オープン」を制するほどの勢いに乗った。 女子選手を多く指導するあるコーチは「プロになる選手は、技術的な素質は十分にある。だからメンタル的なことも含めて、なにかきっかけがあれば開花する可能性は誰にだってある。才能を開花させるヒントがないか?と考えながら指導している」と言っていた。 たしかに狭き門であるプロテストを通過したプロの技術は、当然高いものがある。初優勝を目指して戦い続けるプロや、復活の2勝目を見据えてもがき続けているプロがたくさんいる女子ゴルフ界。開花する瞬間は、心技体のすべてのバランスが整ったとき。そのタイミングは、人それぞれなのだ。