少年の目を通して描く弱肉強食の世界。台湾·日本合作映画『オールド・フォックス 11歳の選択』
今回は、2024年6月14日公開の映画『オールド・フォックス 11歳の選択』を取り上げる。
父と慎ましく暮らす少年が弱肉強食の世界に見たものとは
子供は親の背中を見て育つと言います。とすると、ウチの子たちは……。いやー! 見ないでー!! 反面教師で育ってくれるのを祈るばかりです。そして、滝藤は只今、NHKの連続テレビ小説『虎に翼』を絶賛撮影中。日本の法曹界で「家庭裁判所の父」と呼ばれた方をモデルとする役。素晴らしいチームに支えられながら日々格闘しております。 そんな状況のなか拝見した、台湾・日本合作映画『オールド・フォックス 11歳の選択』。滝藤はふたりの父親の在り方に惹きつけられました。時は1989年、日本のバブル期と同時期で、台湾でも空前の投機ブームに沸いていた頃。猫も杓子も短期間での株の値上がりに狂乱していた時代。 今作の主人公である11歳のリャオジエと、レストランの給仕人である父親タイライは清貧を絵に描いたような生活を送っています。タイライは亡き妻の夢である理容店の開業を目標としていて、リャオジエも健気に節約に勤しむ日々。ところが、土地の価格が高騰し、資金が目減りするだけでなく、今、自分たちが住んでいる長屋もいつ地上げや、転売になるかわからなくなってしまう。 そんな折、地域の顔役で、老獪(ろうかい)な狐と恐れられる大地主のシャ社長からリャオジエは目をかけられ、父にはない貪欲さと弱肉強食の論理に魅入られていきます。 一代で財を成した男の這い上がり人生か。それとも不器用だが誠実な父のような人生か。思春期の少年は揺れ動く。親目線で見ると、滝藤なんかは我が子に後者を選択してほしいと願ってしまう。しかし、自分なら絶対前者を選ぶ。なんでだろう……。不思議だ……。矛盾してるよなあ。金八先生のセリフで、木の上に立って見ると書いて「親」とありましたが、うーんオレはどこから何を見ているんだろう……。 最後に私事ですが、これまで数多くの作品でご一緒し、遠くから勝手に父のように見守っている門脇麦ちゃんが、タイライの初恋の女性役として出演していることに嬉しく、誇りに思いました。 『オールド・フォックス 11歳の選択』 空前の投機ブームで、波に乗る者、乗り遅れた者の悲哀と変化を、11歳の少年の目を通して描く。日本から門脇麦が重要な役どころで参加。台北金馬映画祭で監督賞、最優秀助演男優賞、最優秀映画音楽賞、衣装デザイン賞の四冠にも輝いた。 2023/台湾・日本 監督:シャオ・ヤーチュエン 出演:バイ・ルンイン、リウ・グァンティンほか 配給:東映ビデオ 2024年6月14日より新宿武蔵野館ほか全国公開 滝藤賢一/Kenichi Takitoh 1976年愛知県生まれ。NHKの連続テレビ小説『虎に翼』に、主人公の上司役として出演する。2024/6/28~7/11の期間限定で映画『knot』、10/11『若き見知らぬ者たち』が公開される。
COMPOSITION=金原由佳